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11-5 獣と魔獣

 3人と『黒い魔獣』たちが(にら)み合うのを見て、いつもの様に僕とアリアちゃんを守る結界を張った。


 見上げるほどの大きさの赤い竜に姿を変えたジャウマさんが、『黒い魔獣』たちに向かって咆哮(ほうこう)を上げると、魔獣たちの動きが一瞬だけ止まる。


 が、すぐに『黒い魔獣』たちは牙を()き、咆哮の主に襲いかかろうとした。駆ける魔獣たちの前に白い霧が漂い、魔獣の足に絡みついて地面と一緒に凍りつく。あれはセリオンさんの魔法だ。


「まだだ」

 3本の尾を持つ白い狐がセリオンさんの声で(つぶや)く。僕らの見ている前で、後続の魔獣が動けない魔獣を踏み台にして赤竜に飛び掛かる。赤竜は両手を振ってそいつらを払いのけた。


 空に飛び上がった鳥型の『黒い魔獣』には羽根の形の矢が刺さり、羽ばたきを止めた魔獣が空中でよろけた。虹色の羽根を持つ神鳥(しんちょう)の姿になったヴィーさんが放った物だ。

 その神鳥に別の方向からコウモリのような翼を持つ魔獣が、牙を剥いて飛び掛かる。

「くそっ!」

 ヴィーさんの声と共に、神鳥の羽根が数枚空に舞った。どうやら(かす)ったらしい。


 セリオンさんに凍らされた足を無理やり地面から引き()がした魔獣たちは、今度は白狐に向かっていく。

 白狐は1頭目を避け、2頭目を氷の柱に封じる。その尾を振ると、2頭目が氷と共に大きな音を立てて砕け、霧散した。氷が砕ける横から、3頭目の虎のような魔獣が飛び込んできて、白狐にのしかかり抑えつける。


「セリオンさん!」「クゥ!」

 僕が叫ぶのとほぼ同時に、月牙狼(ルナファング)のクーが駆けだす。3頭目の前足に噛み付くが、魔獣は白狐の体を離そうとしない。


「どけ!」

 ジャウマさんの声がした。パッとクーが離れると、間髪(かんぱつ)入れずに炎のブレスが飛んでくる。炎を浴びた魔獣はようやく白狐を自由にした。


 氷柱と共に砕けた『黒い魔獣』は、黒い(もや)に変わりこちらへすぅと流れてくる。僕らを守る結界を、まるで無いかのようにすり抜けると、僕の隣に居るアリアちゃんに吸い込まれていった。

 もう一つ、別の方向からも黒い靄がこちらへ流れてくる。これはヴィーさんが倒した魔獣だ。


 その時、部屋の真正面に据えられていた一番大きな(おり)から、新しい魔獣の(うな)り声が聞こえてきた。檻からのそりと姿を現したのは、真っ黒な闇色の(うろこ)を持つ竜だった。


「ジャウ、トモダチが来なすったぞ」

 神鳥がヴィーさんの声で赤竜に向けて茶化(ちゃか)すように言う。確かにあれの相手ができるのはジャウマさんだけだろう。

「あんなのと友達になった覚えはないんだがな」

 そう答えながら赤竜は、竜の首を黒竜の方へ向けた。


 * * *


 彼らに倒された魔獣がまた1頭、また1頭と、黒い靄になってこちらに流れてくる。

 3人は強い。でも流石に数が多い。いくらジャウマさんたちでも、あの数を相手に楽勝とはいえないのだろう。

 少しずつ、ジャウマさんの巨体が、ヴィーさんの虹色の翼が、セリオンさんの真っ白な毛並みが、彼ら自身の血で汚れていく。


 彼らが傷つきながらも戦っているというのに、自分は何もできないのが本当にもどかしい。

 自身に対する悔しさで、握った手にぎゅうと力が入る。その手に、温かい何かが触れた。


 振り返ると僕の手を握っていたのは、泣きそうな顔をしているアリアちゃんだった。

「ラウル、私のせいでパパたちが傷ついている。お願い、ラウルのお薬で助けてあげて」

「で、でも……」

 僕はアリアちゃんを守らなくてはいけない。それが僕の役目なのだから。これはジャウマさんたちにもきつく言われている。でも…… 


「ジャウマ!」

 ヴィーさんの声に、彼らの方を振り向いた。


 黒竜を抑えつけている赤竜の体に『黒い魔獣』たちが群がり噛み付いている。赤竜が体を振ろうとしたその時、


 グアアアアアアアア!!!


 抑え込まれていた黒竜が、大きな咆哮を上げた。咆哮と共に黒竜が赤竜を跳ね飛ばすと、壁に強く叩きつけられた赤竜はずるりと崩れるように倒れ、そのまま動かなくなった。


「ラウル、お願い!」

 アリアちゃんの声を聞き終える前に、僕は結界を解いて赤竜のもとへ走り出していた。


「ジャウマさん! 大丈夫ですか!?」

 赤竜の元へ駆け寄ると、マジックバッグからポーションを取り出し振りかける。閉じたままだった彼の目が、ぴくりと動いた。


「ラウル、バカやろう! なんで出てくるんだ! アリアを守れと言っただろう!」

 『黒い魔獣』と戦うヴィーさんの怒号(どごう)が、上から降ってくる。

「で、でも、ジャウマさんが……」

「俺らはアリアがいる限り、死んでもまた生き返る! でもアリアが死んだら、俺らも死ぬんだ!」


 え……?


「早く戻れ!」

「わ、わかりました! せめて、ジャウマさんにこれを!」


 次いで取り出したもう一本を、急いで赤竜に振りかける。


 今度こそ、はっきりと目を開いた赤竜は、首を持ち上げると口を開いて大きく息を吸った。

 次の瞬間、赤竜の口から放たれた炎のブレスが、黒竜の全身を包みこむ。黒竜は断末魔の声をあげながら黒い靄となって散った。



 その黒い靄がアリアちゃんの方へ向かうのを見て、ほっと胸を()で下ろした。

 キメラの神魔族(しんまぞく)グラニソの姿は無い。またどこかへ逃げたようだ。残った『黒い魔獣』たちも、先ほどヴィーさんとセリオンさんに倒された。『黒い魔獣』はこいつが最後だ。アリアちゃんにも危険は無い。

 それより3人の怪我が酷い。回復用のポーションを出さないと。


 そう思いながら、マジックバッグを漁ろうとした僕の耳に、セリオンさんの声が届いた。


「アリア、どうした?」

 振り向くと、赤い目を爛々(らんらん)と光らせ放心しているアリアちゃんがいる。明らかに、様子がおかしい。


「アリアちゃん!」

 以前の、ケルベロスの魔力を吸い込んだ時のことを思い出し、慌てて駆けだす。またあの時のようになってしまったのなら、僕が止めないと……


 肩を(つか)もうとした僕の手を、アリアちゃんが振り払った。


『邪魔をしないで』


 アリアちゃんがそう言った途端、まるで石にでもなったかのように、体が固まって動かせなくなった。


「くっ……」

 ジャウマたちの声が聞こえる。彼らも僕と同様、動けないようだ。


『……お父様が呼んでいる。行かないと』

 そう言うと、アリアちゃんはまるで何かに誘われるように、ふらふらと一人で訓練場を出ていってしまった。

お読みくださりありがとうございます♪


先日、こちらの作品にレヴューを頂きました。

応援してくださっていること、とても嬉しく思います(*´▽`)


えっと、来週ですがホワイトデーがあります。

先月のバレンタインデーに閑話を書いていますので、いつもならホワイトデーにも閑話を書いているのですが、さすがに今回はラストの流れをぶった切りすぎてしまうので、諦めることにしました。

その代わり、ではないですが、完結後に何か少し書けたらいいなと思います。

もしリクエストなどありましたら、お寄せください~♪


次回更新は3月9日(土)予定です。

引き続きよろしくお願いいたします~~(*´▽`)

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― 新着の感想 ―
[一言] アリアちゃん、なんかあったみたいですね…かなりのモヤを処理しましたし、また成長するなりするのでしょうか? でも、ずいぶんひどい戦いになったようですね…早く回復するといいのですが…。
2024/03/07 01:13 退会済み
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