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10-8 洞で朝を迎える

 薄く目を開けようとしたところで、(まぶ)しさで目を(しばたた)かせた。

 いつの間にか眠っていたらしい。雨も止んで、(ほら)の入り口から深く差し込んできた朝日が、僕の顔に当たっている。


「よぉ、起きたな」

 頭の上からヴィーさんの声がした。驚いて顔を上げると、ヴィーさんのニヤニヤ顔が僕を見下ろしている。

 僕が布団の代わりにもたれていたのは、ヴィーさんの大きな翼だった。

「え? ええ? す、すみません。僕、こんなところで寝てしまって……」


 僕の言葉に、ヴィーさんはわざと顔を(しか)めてみせる。

「俺の腕の中を、こんなところとか言うなよ」


 いや、さすがに腕の中ではない。その言葉で、ヴィーさんの腕枕で目覚める自分を想像してしまった。全く嬉しくもない。

 ヴィーさんのさらに向こうを見ると、反対の翼にはすやすやと眠るアリアちゃんがいた。


「お前ら、気を張りすぎていたみたいだからな。セリオンが魔法で眠らせたんだ」

 ああ、そういうことか。道理で眠った時の記憶がないわけだ。


 そのセリオンさんは、向かい側の岩壁に背中を預けて目を(つむ)っている。でもセリオンさんのことだから、もう起きてはいるだろう。そのセリオンさんのふさふさの尾に寄り添うように、クーが丸くなって眠っている。


 立ち上がって洞の中を見回すと、洞の奥手で昨日の親子連れが休んでいる。彼らもセリオンさんが眠らせたのだろうか。

 ご夫婦を起こさない様に、寝袋で眠る少年のかたわらにそっと移動した。すっかり顔色が良くなっている。もう大丈夫だろう。ほっと胸を()でおろした。


 洞の入り口から差し込む朝の光に影が落ちて、振り返った。入口に立っていたのはジャウマさんだ。いつものように早起きをしていたんだろう。それだけじゃあない。手に何かを持っている。ウサギを2羽獲ってきたようだ。


「よお、起きたな」

 そう言って、手にしたウサギをこちらに差し出す。

 ジャウマさんたちは壊滅的に料理が出来ない。あれを受け取って料理するのは、いつも通り僕の仕事だ。

「おはようございます。これは朝食用ですね」

「ああ、頼む」


 ジャウマさんの手からウサギを受け取ろうと、入口の方に数歩進む。その時、コツンと何かが肩に当たった。足元に落ちたそいつは、そのままころころと転がっていく。小さな石ころだ。

 またひとつ、目の前に小石が落ちる。さらに一つ、今度は肩に当たる。

 これは……


「いけない! 洞が崩れるぞ!!」

 ジャウマさんの大声に、辺りを見回した。


 すでにヴィーさんはアリアちゃんを抱きかかえて、出口へ駆けだそうとしている。セリオンさん、クーもすでに立ち上がっている。

 でもその間にも落ちてくる石がどんどん増えてくる。これじゃあ、洞の奥にいる3人は確実に間に合わない……


 無我夢中で手を前に差し出し、結界魔法を発動させた。



「ラウルくん、よくやったな」

 セリオンさんの言葉で、ハッと自分を取り戻した。うまく……いったって事だろうか。


 ゆっくり顔を上げた僕の視界に、皆の感心する顔と親子連れの(おび)えながらも驚いたような顔があった。

 結界魔法はうまく発動したらしい。崩れてこようとしていた岩たちは僕の結界に阻まれて、まるで細長い筒のような形で留まっている。でもこの結界を解除すれば一気に落ちてくるだろう。


「ラウル、ここに出口をつくれるか?」

 ジャウマさんが、元は洞の出口だった辺りの結界をトントンと叩く。そこだけは岩に塞がれずに外の景色が見えている。ジャウマさんに向けて、(うなず)いてみせた。


 * * *


 すっかり雨の上がった朝の空の下で、兎肉を使った料理を朝食に振る舞うと、ようやく皆が笑顔になった。


 ハーブを擦り込んだ兎肉のローストに、(あぶ)ったパンを添えて。深皿によそったスープには、肉だけでなく野菜もたくさん入っていて、美味しそうな香りと湯気を立てている。

 ご夫婦も少年も、暖かい料理を久しぶりに食べるのだそうだ。あのジャウマさんが珍しく遠慮をして、代わりに彼らの皿にお代わりをよそった。


 皿の上も(ほとん)ど空になりお腹が満たされたころ、猫獣人の父親が僕らを見回しながら言った。

「そう言えば皆様は、聖地へ巡礼に行かれるのですか?」


 聖地? 巡礼? 少なくとも僕には、それらの言葉に心当たりは無い。


 僕がうーんと考え始める前に、ヴィーさんが父親の言葉に応えた。

「ああ、そうだ。あんたらはそこから来たのか?」

「はい。巡礼を終えて、帰るところだったのです」

「だいぶ歩いて来たからそろそろ着くんじゃないかと思ったんだが。そこまではあとどのくらいだ?」


 ヴィーさんは相手の会話に調子を合わせるのが上手い。今回もそんな感じだろう。肝心な部分は曖昧(あいまい)な言葉で誤魔化(ごまか)しながら、うまく話を繋げている。

 そのやりとりと聞いた感じでは、僕らが目指していた大森林の奥にある町には、その『聖地』があるらしい。



 朝食の後片づけも済み、出立の時が来た。猫獣人の親子とはここでお別れた。


「本当に、本当に色々とありがとうございました。お礼をしたいのですが、生憎(あいにく)この程度しか持ち合わせていませんでして……」

 そう言って父親は、カチャリと軽い音のする布袋を申し訳なさそうに差し出した。


「いや。旅はまだ続くのだろう? それはあなた方に必要なものだ。もしも気にしてくれるのなら、またどこかで会った時に返してくれ」

 そう言って、ジャウマさんが布袋を持つ手を押し戻すと、ご夫婦はまた深く礼をした。


 森の木々に囲まれた道を、彼らと僕らは反対方向に歩み始める。

 僕らに向かってめいっぱい手を振った少年の姿を見て、元気になって良かったと、洞が崩れた時に助けることができて良かったと、僕が役にたつことができて良かったと、心から思った。

お読みくださりありがとうございます(*^-^*)


この話でこの章の本編は終わりです。

そして、次の章が最終章となります!


本編が最終章に行く前に、ちょっとした閑話、登場人物紹介、魔獣辞典、バレンタイン閑話などを掲載します(掲載順未定)。


次回更新は2月10日(土)予定です。

どうぞよろしくお願いいたしますー(*´▽`)

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― 新着の感想 ―
[一言] 猫獣人の一行とも別れて、いよいよ最終目的地に向かうようですね。最後、何が待ち受けているのか、とても楽しみです。
2024/02/07 23:20 退会済み
管理
[良い点] アリアちゃん、また大きくなったんだ! これで身体の急成長は終わりかな? 年頃の女の子、ちょっと意識しちゃいますね 記憶が戻ってもみんなとの関係はあまり変わらないけれど、ラウルくんがかなり…
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