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人質

がやがや

何やら外が騒がしい。

ううん? 気のせいか?

いや違う。何か嫌な予感がする。

俺の第六感が何かを訴えている。一体何なんだ?


があああ!

いびきがうるさい。

誰だこんなに勢いよくいびきを掻いてる馬鹿は? はっ? 俺じゃねえか!

飛び起きる。

こんだけうるさければ…… やっぱり…… 逃げなくては……

しかしもう遅い。


倉庫の扉が開いた。

いきなりの太陽。目が眩む。

うおおお!

たまらなく後ろを向く。いやそんなこをとしてる場合ではない。

「おい…… 」

蚊の鳴くような声で問いかけられる。

男二人組が入ってくる。

「誰かいるのか? おい! おい! 」

物陰に隠れやり過ごす。

「いるのか? いないのか? どっちなんだ? 返事をしろ! 」

「いませんよね…… 」

一人は慎重に前に。もう一人は物怖じせず大胆に大股で向かってくる。

「怖いよう…… 」

「大丈夫だって俺がついている」

「でもさあ…… 」

背中に隠れてしまう。

「仕方ない奴だな。ほら確認してこい! 」

「兄ちゃんがしてよ」

どうやら二人はここの者で兄弟だと言うことが分かった。

これ以上近づかれては気づかれる。

「お前はそっちだ」

「ええっ? たぶん気のせいだよ。もう戻ろうよ」

「馬鹿! 見てこいって言われたんだ。従うしかないだろ」

「ええ…… でも怖いし…… 」

「いいからほらそっちから回れって」

ゆっくり詰められていく。


もう逃げられない。俺もあいつらも。

見つかっては最後。騒がれたらまたねぐらを探さなくてはならない。

見つけては最後。余計なことに首を突っ込んだ二人に罰が下る。

ボケットから血を大量に浴びたナイフを取り出す。

さあ来てみろ。いいんだぜ。


刹那閃く。

もう逃げ道はない。だが打開策が無いわけではない。


「おい! 」

さも面倒と言わんばかりの視線を送る。

もう片方は距離を取って震えている。

「どこから来た? 勝手に入りやがって! 答えろこのクソガキが! 」

明らかに自分より弱そうな人間だと分かり油断してゆっくりと近づいてくる。

「まったく困った野郎だ。こっちの迷惑も考えないでよう」

「危ないよ」

「へへへ。何震えてんだ? こんなガキ一人によ」

男は迫ってくる。

「気をつけて! 」

「へへへ。大丈夫。大丈夫。早く追い出しちまおうぜ」

「なあガキ! 」

俺よりも明らかに大きく力も強い。しかしこれではどうしようもないだろう。


「動くな! 」

男の首元にナイフを当てる。勢い余って深く食い込むところだった。

危ない危ない。

いちいち加減してやらないとは面倒くさい。

男は暴れる様子もなく大人しく従っている。しかしいつまでも従順とは限らない。

隙を見て反撃を試みようと企んでいる様子。


「おい! 動くなよ! 」

男を人質に取る。

「おい冗談だろ…… なあ…… 」

「うるさい! 大人しくしてろ! 」

もう一人はその様子を這いつくばって見ている。

驚いて立てないのか。

「おい。大声を出すなよ? お前たちの為だ」

二人は頷くしかない。

「いいか俺は追われている。俺がどう言う奴か分かるだろ? 」

うんうん。

「大人しくしていれば何もしない」

もう一人はもはや涙を流している。

「日が暮れたらここから出て行ってやる。俺は今腹が減っている。何が言いたいか分かるか? 」

大げさに頷く。

「早くしろ! 」

もう一人は立つことも忘れ外へ這っていく。

「よしよし。お利口だ」

人質を残し行ってしまった。


「ふふふ…… 帰ってくるかな? 」

「馬鹿な! 俺を見殺しにするわけないだろう! 」

「はい。抑えて。どっちでも俺は構わない。でもその時はお前からだぞ」

男は覚悟を決めた。

「何。五分五分だって。お前が嫌われていなければ助けてくれるはずさ」

「くそ! 」 

男は大人しくなった。

「良い奴だったのにな…… 」

からかう。

「よし食い物を持ってくるまで、奴が裏切って仲間を集めるまで暇だから身の上話でもしよう」

「くだらない! 」

「こんな緊張状態じゃお前も嫌だろ? 」

男に促すが拒否する。

「まったく良い度胸だな。お前が嫌だと言うなら俺から話してやる」

男を解放。動かないことを条件に座らせる。

「ふん。勝手にしろ! 」


「俺は町からやって来た。

こんな田舎は初めてだ。お前らみたいな奴も初めてだ」

「こんな外れに何の用があって…… まさか祭りを見学に来ましたなんて言わないよな? 俺にはお前が分からん」

「ふふふ…… 用はねえ。別に目的も用もない。ただ逃げて来ただけだ。

闇雲に逃げて追手から逃れるのに必死で何も考えずにここまで来たのさ」

「なぜそうなった? 」

「何だやっぱり気になってるんじゃないか。俺は人を殺しちまった。

今では後悔してるがな。だがあの時はどうかしていた。いや初めからおかしかったんだ」

「犯罪者の言い訳は聞きたくない! 」

「仕方なかったんだ他に方法が無かった。

自分を救うには他人を犠牲にするしかなかった。今のようにな」

ナイフを向け反応を見る。

男は下を向き黙ってしまった。


「そう。そう。大人しく俺の話を聞くんだな。

医者に見捨てられた。

結局俺の言ってることを信じちゃくれなかった。

誰も俺を信じない。

だから俺も誰も信じない」

「あれは…… 」

記憶を辿る。


                   <続>

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