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告白

一週間後。

再び伺うことに。


ドクターは前回同様、優しく丁寧に接してくれた。

「今日は一人かい? 」

「はい。自分のことですから迷惑はかけられません」

「それは違うよ。ちゃんと話して周りに理解してもらわなくちゃ」

「でも…… 」

「周りの協力が不可欠だ。一人で解決しようと思わないこと! 」

「分かりました」

「ではさあっそく。前回君が話してくれたことだけどね…… 」

「くっつくとはどういうことだい? 」

「その…… 人間がくっつく…… 」

「ますます分からないなあ」

「実は小さい頃から感じてたんです」

「いつ頃? 」

「十歳頃から。おかしいなあって思ってました」

ふむふむ。

「それが酷くなったのが二年ほど前」

「うーん。酷くなったと言うけどそれは悪化と言うよりも顕著に表れたと言った方がいいのかな。今まで感じていなかった些細なことが急に気になりだし止まらなくなった。違うかい」

「先生は俺のこと信用できないんですか? 」

「いや。そうは言ってない。まだ症状が良く分かってない状態で断言するのは早計だが…… ただの気のせいかもしれない。いや違うか…… 」

何と表現していいか迷っているようだ。

「こんなにも苦しいのに気のせい? ただの気のせい? 」

「これはね思春期特有の病気なんだ。だから気にしない。苦しいのは成長している証拠なんだ」

「そんな…… こんなに苦しいのに…… 」

「いいかい。乗り越えるんだ! 時が経てば気にならなくなる。そう言うものだ」

信じられない……

「先生! 」

「よし。今日はこれくらいにしよう。またおいでその時詳しい症状を見て行こう」

ドクターは良かれと思って言ったのだろうが俺は凄く傷ついた。

これではまったく相手にしていない周りの者たちと一緒ではないか。

ほら一緒だ……


二週間後。

相変わらず座れないほど混んでいる。

下を向き見ないように努める。意識しなければどってことない。

でも一度でも目を止めてしまえば動き出す。

狂っている。

自分の目がおかしいのは分かっている。

だが止められない。いくら分かっていようが動きは止められない。

目を瞑ればいい。

そう思い何度か試してみたがただ中断されるだけで目を開けた瞬間また動き出す。

誰も分かってくれない。

誰も本気にはしてくれない。

どれだけ苦しいか。

理解しようとしてはくれない。


うん?

呼ばれていることに気が付いた。

急いで中へ。

「前回は変なこと言ってすまなかったね。仮に何らかの症状が表れてもそれは一時的なものだ。

決して焦らずに粘り強く対処するようにと言いたかったんだが…… 」

優しくそれでいて決して真剣な表情は崩さない。

自然に促され応える。

「俺…… 人が認識できないんだ…… 」

「具体的には? 」

「最初は友達」

「一人二人三人までは何の問題もない。そこに五人六人と増えだすと個人個人を認識できなくなる。

もう友達とか性別、関係性に関わらず友達。彼も友達だし。彼女も友達」

「それはある意味素晴らしいことじゃないかな」

「ああ教師にも言われた」

「うんうん」

「最初はそれが何が問題なのか自分でも理解してなかった。でも学校ではそういうことが頻繁に起きた」

「友達なら友達。

クラスならクラスメイト。

学校なら生徒みたいに。

おかしなことにそのうち性別でも区別するようになった。

男。女。

どんどんひどくなって家でも同様に家族」

「うーん。認識しなくてもいいのに認識しようと無理をした結果悪化してしまったらしい。気にし過ぎなのかもしれないね」

ドクターは頭を掻く。

僕もつい掻いてしまう。

「変でしょう? 」

「うん。変だね」

「おかしいでしょう? 」

「ああ、おかしい」

「そのうち…… くっつくようになってしまったんです」

「うーん。そこが良く分からないんだがね。くっつくとは? 」

「消えるってことです」

「消える? もっと訳が分からない」


「初めは全校集会だった。人が多いなと思ってふと数えてみたんです」

「一人二人三人と。まず近くの者。要するにクラスの者から数えていき隣のクラス。その隣と意味もなく数えていったんです。

暇でしたからやることもないしふざけていると叱られるしつまらない話を聞いていると頭が痛くなるし。

十人、二十人と数え、飽きたなと思って前を向きました」

「うむ。うむ」

「そこには友達がいませんでした。

クラスメイトも消えていました。

ただの友達。

ただのクラスメイトになっていたんです」

「うん? 」

「一人一人の境目が消えぼんやりとした物体になりそれがどんどん大きくなり……

一つの塊になって…… 」

「襲ってきた? 」

「いえ。時間が経つと自然に元に戻りました。

その時はもうずっと下を向いて見ないようにしていました。

それ以降人が多く集まる時は心を無にしていますが無意識のうちに見てしまい繰り返されることに」

「それは辛いだろう」

「この症状が未だに続いています。しかもどんどんひどくなり少人数でも起こるようなりました」

「三人? 」

首を振る。

「四人? 」

「もうちょっと」

「五人? 」

「はい。五人もいるとどうにもなりません」

「分かった。良く打ち明けてくれたね。このことは? 」

「詳しくは誰にも。嫌がられますから」

「では今は学校に行けてない? 」

「はい。もうどうしようもありません。人混みは避けるようになりました」

「よし。今日はこれくらいでいいだろう。またおいで」


                   <続>

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