孤独
サブニーは行ってしまった。僕もゆっくりしていられない。
付き添いなしの自由行動。ワクワクと同時に不安が押し寄せてくる。
僕が望んだこと。サブニーには迷惑はかけられない。
怖くないさ。僕ならできる。僕なら! 自分にそう言い聞かせ恐怖を取り除く。
心を落ち着かせ。行動開始。
ダメだ足が震える。手まで震えてきた。
どうしよう? どうしたらいい?
頭が一杯で何も考えられない。あーあ。本当にどうしよう。
うーん。
「どうしたの坊や? 見ない顔をだけど」
メガネをかけたおばさん。
見た目はきつそうだけど親切にも声をかけてくれたんだ。悪い人ではないだろう。
「僕はあの山の村から来ました」
自己紹介をする。
「偉いわね。何か…… ええっと…… 」
「お名前を聞かせてください」
これで三人目。
「そう人を探してるのね。じゃあこの道を行ったところにお店があるから行ってみるといいわ」
何を勘違いしたのか人探しをしていると思われてしまった。
間違いではないけど町の人。村の者以外なら誰でもいい。
まあいいか……
有益な情報を得てお店の方へ。
昼。
陽の光が漏れる。
いつの間にか眠っちまったようだ。
腹が鳴る。
朝からずっと腹が鳴りっぱなしだ。もう慣れたと思ったが体は正直だ。
とにかく何か食わなくては死んでしまう。
真っ暗な中わずかに漏れる陽の光を頼りに食い物を漁る。
何かないか? 何でも良い。頼む!
できるなら外に出てじっくりと行きたいが生憎追われている身。見つかっては面倒。
それにここにも無断で入ったのだ。音を出せば怪しまれる。
今のところ人が来る気配はない。
自由に漁り放題。
そうは言っても限界がある。
おお! ラッキー。パンがある。助かった!
備蓄用に保存してあった非常食が手に入った。
これは何と言う幸運。さっそく一口。
かじってみるとパンは固く味もない。
一気に口に入れるとつっかえるのでちょっとずつ丁寧にちぎって含む。
水さえあれば……
だが水もそれに代わる飲み物もここにはない。
贅沢を言ってる時でではない。有難くパンを頂戴する。
腹が膨れた。これで数時間は持つだろう。
日が暮れるまではまだありそうだ。とにかくよく眠って夜に備えねば。
おやすみ。
再び横になる。
しかし眠気が……
どうしたのだろうまったく眠れない。さっきまであれほど眠かったのに不思議だ。
いつの間にか目が冴えている。
こんなことは珍しい。俺は一体どうしちまったんだろう。
緊張? 馬鹿な! なぜ?
よその土地に行くとたまにこういうことがある。
慣れてしまえばどってことないが昨日の今日なので上手く行かない。
「ちくしょう! 」
おっと。聞こえたか? 大丈夫。問題ないようだ。
眠ることもできずただボーっと上を見上げる。
どうして……
過去の記憶が蘇る。
「気になりだしたら止まらないんです先生」
親に連れられ精神科へ。
待ち時間が一時間を超え二時間に迫る時ようやく順番が回ってきた。
盛況なようで待合室にはブツブツとつぶやく精気の無い患者という物体の塊が席を埋め尽くしている。
目を合わせないように細心の注意を払う。
くっそまだかよ!
待たされ続けたイライラも限界。試練の時を過ぎ名医と呼ばれるドクターに会うことができた。
初めてとはいえ大変なストレスを逆に感じることになってしまった。これでは体にも精神にもよくない。
「具体的に教えてくれるかな? 」
優しく信頼の置けそうなベテランのお爺さん。
物腰も口調も柔らかく話しやすい。
俺は思い切って話すことにした。
「くっつくんです」
「くっつくとは? 」
そう言われると何も口から出てこない。
「すみません。この子今ナーバスになっていて…… 大したことないんですよ。
でも先生に相談したら一度見てもらった方が本人の為だって紹介されたんです」
「おほほ…… お恥ずかしい」
世間体を気にするあまりなるべくおおごとにしたくない気持ちから気のせいだと勝手に思っている。いや確かに自分でも大したことないと考えているのだが……
でもどうしても気になる。
「ほら話してごらんなさい」
ううう……
「無理しないでいいよ。今日はこれまで。話したくなったらまた来て」
さすがは精神科の先生。患者に寄りそう姿勢が好感を持てる。
などと生意気に評価する。
二週間おきに通うことに。
<続>