動き出した者たち
出発。
サブニーをお供に最初の一歩を踏み出す。
村を出て山道をくねくねと進む。
道を少し行ったところにさっそく分かれ道。
「サブニー 」
「おいおい少しは自分で考えろよ! 」
「だって…… 」
「地図があるだろ地図が。その地図を見ろ! 」
「えっと…… こっちかな」
歩き出す。
「違うだろ! そっちは鉱山だ。邪魔する気か? 」
「へへへ」
「さあ行くぞ! 」
サブニーはあくまで補助。できるだけ一人でやるよう長老に厳しく言われている。
とにかく人に会うには山を下りるのが先決。
地図をよく見て最短で町を目指す。
町。
はあはあ
はあはあ
何だってこんなに警戒が厳しいんだ。至る所に警官を配置しやがって!
バレたか? だが顔を見られていないはず。いったいなぜ?
そうかあのおっさんに見られたか。
くそ! 口封じしておけばよかった。奴もこちらの人間。
ほんの少しの油断と情をかけたことによって窮地に追い込まれる。
恩を仇で返しやがって変態野郎め!
急に怒りが湧いてきた。
もう我慢できない。一日だって我慢できない。
うおおお!
大声を上げて走り出す。
うん?
これではまるで犯人だと自分から告白しているようなもの。
冷静に冷静に。
立ち止り深呼吸。
もう一回。
大きく深呼吸をして頭を冷やす。
もう大丈夫。心配ない。
走るのは止めて早歩きで町から脱出を図る。
夜遅く。
「おい! まだ見つからないのか! 」
「へい。目撃情報を辿るとどうやら町を抜けたようで」
「何だと? 」
「山にでも逃げ込む気でしょうか? 」
「それはまずい。早く何とかせねば」
「しかし町を抜けたのです。我々の管轄外では? 」
「そんなこと関係あるか! 管轄などと言ってる時ではない。遺族に何と言えばいい? 」
「全力を尽くしましたが力及ばず大変申し訳ありません」
「アホか! そんなんで許す訳ないだ! 」
「しかし…… もう人員を割く余裕がありません」
「人員? 非常時だぞ。まだ山には逃げ込んでないはず。早く手を打たんと大変なことになる」
「分かってますが手も足りませんし皆疲れています。こちらの事情も察してください」
「私の出世が…… 」
「それでしたら自ら出向いたらいかがでしょうか」
「私に行けと? 」
「はい」
「指揮系統はどうする? 」
「それは私の方でどうとでも」
「お前は残るのか? 」
「はい」
ふふふ……
ははは?
「お前もついてこい! 」
「そんな…… 」
「役に立つ時が来たぞ。私に見せてみろお前が有能だと言うことを。証明してみろ」
「無茶苦茶です」
「うるさい! 文句を言うな! 二人一組。これが鉄則だろ」
押し切る形で部下を連れて夜の街へ。
どうにか町を出ることに成功した。
もうこの辺りには警察は立っていない。
そう管轄外。
奴らが面倒な追い駆けっこを続けるわけがない。
この辺りには危険が無いようだ。
ひとまず落ち着くことができた。
後は寝床を確保せねば。
できたら風呂にも入りたい。
体をきれいにするだけでも良い。
本来俺はきれい好きなのだ。
腹も減っている。
獲物だって一気に調達できたらなあ……
うん? 気配がする。
「おーい! 」
まずい……
すぐに木の影に隠れる。
「おーい! おーい! 」
俺を呼んでいるわけでは無いらしい。
声の主は爺さん。
もうボケちまったのか徘徊している。やれやれ。
「おーい! 太郎や! 」
いきなり明かりが点灯したかと思ったら……
「うるさいね! またあんたなの? 」
目を擦り嫌だ嫌だと年増の女が家から出てきた。
「もう眠れないだろ! 」
「じゃが。太郎がいなくなっちまった。あんた知ってるかい? 」
「太郎かい。そんなのとっくの昔に…… 」
女は口に手を当てた。
「それに婆さんが…… 」
「私が朝までに探しておくから自分の家に帰って寝てな! 」
そう言うと爺さんを引きずっていった。
「ああ世話が焼ける」
女はブツブツいいながら戻ってくる。
絶好のチャンス!
だが……
行動には移さずに立ち去る。獲物がこれでは張合いが無い。もう俺にはこのくらいでは満足しない。
できるなら次は若い娘か腕っぷしの強い男。
ふふふ……
女が姿を消したところで夜道を歩きだす。
しかしもう誰も歩く者などいない。全員寝ちまっているようだ。酔っぱらいの一人も転がっていない。
くそ! 判断を誤ったか。まずい! 明るくなってきた。早く。ねぐらを探さなくては。
限界だ。
陽が登る。
獣が奇声を上げる。
鳥のさえずりが耳に障る。
鶏がけたたましく朝を告げる。
それと同時に老人たちが姿を現した。
やばい! 急がなくては。
囲まれたらどうしようもない。絶対に目を合わせてはいけない。感じてもダメだ。
怪しまれないようにやり過ごす。挨拶さえしていれば乗り切れる。
どこぞの物置小屋に忍び込み難を逃れる。
後は太陽が傾くころに動き出せばいいさ。
腹が鳴る。
果たして寝れるだろうか?
そんな心配もよそに疲れからかいつの間にか眠ってしまった。
見つからなければいいが……
<続>