旅立ち
夜遅く。
長老宅へお邪魔した疲れからすぐに眠ってしまった。
がやがやと騒がしい。
うるさいな。
母が起き出迎える。
「帰ったぞ! 」
夜遅くに村の者と一緒に父が戻ってくる。ここ最近いつもだ。
よっぽど忙しいのだろう。
前は陽が暮れたらすぐに帰って来ていたのに……
僕も仕方なく起きてしまう。
良く分からないが父さんたちは何か発掘作業を行っているらしい。
詳しくは教えてくれないので話から予想するしかない。
サブニーは金だって言って騒いでる。本当かな……
まあ何でもいいが疲れて帰ってくると機嫌が悪いので早く終えて元に戻って欲しい。
「何! 町に行くだと! 」
「そうなんだよ。この子ったら長老に言っちまってさあ」
「ははっは! それは立派だ」
「ええ? 何言ってるのあんた! 」
「いいじゃねいか。のぞみももう子供じゃねい」
「子供でしょう! まだ十二よ」
はっはは!
酒で気分がいいのか怒りもせず反対する様子もない。
「ねえ。行ってもいいでしょう? 」
「ああ? お前まだ起きていたのか? 早く寝ちまえ! 」
「ねえってば! いいでしょう? 」
「ああ。構わねいよ。長老がいいっと言ったものを俺がダメだなんて言えねえ! 」
「やった。決まりだ! 」
「こらのぞみ! まだ私が…… 」
「いいじゃねいか。好きにさせろ! 」
「でも…… 」
「誰かつけてくれるんだろ? 」
「ええ。三郎さん」
「なら心配ねえ。行ってこい! 」
「わーい! 出発は明後日なんだ。それまでに準備しなきゃ! 」
ははっは!
「でも三郎さんだよ」
「こいつも懐いてるんだろ? 」
「ええ。べったり」
「なら問題ねい! 」
「いい加減なとこがあって心配だよ」
「それは俺も…… 人のことは言えないな。 はっはは! 」
「女好きで有名でさ…… 」
「それは俺も…… 人のことを言えた義理じゃない」
「もう知らない! 」
親の許しが出た。
後は出発するだけだ。
翌朝。
眠い眠い。
「まだ慣れないの? 困った人ね」
「そうじゃなくて寝不足なんだ」
目を擦りながらたからの後をトボトボ歩く。
「ああもう眠いなあ…… 」
「ほら。早く! 」
罠に獲物がかかっていないか見に行く。
今日は僕とたからの番だ。
もし大物がかかっていたら笛で知らせろと言われているが今日は生憎獲物は見当たらない。
「あーあ。残念…… 」
「ねえ。聞いたわよ。町に行くって本当? 」
「あれ。早いね。どこから聞いたの? 」
「やっぱり本当なのね? 」
「ああ。でもお前を連れていけない…… 悪いけどさ…… 」
「誰が行きたいって言ったのよ! 私はごめんだわ! あんな物騒なところ」
たからは興味津々と言うわけではなくただ単純に心配しているのだろう。
「心配してくれるのか? 」
「誰が! 私の仕事を増やさないでと言ってるの」
僕が留守の間彼女がカバーせざるを得ない。
迷惑そうに睨む。
「行ってどうするの? あなたこの村から出るつもり? 」
「ああ。大きくなったらね」
「あっそ。好きにしなさい! 」
それから口を聞いてくれなくなった。
怒らせるようなことをしただろうか?
まったく困ったなあ……
午後。
サブニーのところへ。
いつものことだが今回は挨拶を兼ねている。
明日のことを話し合う。
「何心配するな。俺がついてるんだから」
サブニーはいつも通り。元気一杯。
少しソワソワしているのが気になる。まあ僕と同じくらい楽しみなのかもしれない。
サブニーは用があると言って外に出て行ってしまった。
明日の支度だろう。深く考えるのはよそう。
あー明日が待ち遠しい。
夜。
明日に備えて早く寝ることに。
眠れない。
どうやって眠ればいいか分からない。
緊張と興奮でどうしても眠れない。
じっと目を閉じるが夜のままだ。
そのうち父が帰ってきてしまう。
どうしよう。どうしよう。
格闘すること一時間ようやく夢の中へ。
翌日。
出立の時。
見送りの者が集まってきた。
僕は何だか嬉しくなってきた。
さあ、冒険の始まりだ。
母が心配そうに見つめる。
たからは紙を渡してくれた。
「何だこれ? 」
「村からの地図。迷って帰ってこれなくなったら困るでしょう」
有難く受け取る。
「昼は持った? 」
「忘れ物は? 」
「寂しくなったら戻ってくるんだよ」
「おいおい。心配だろうが儂のとこの三郎がついている。問題ないさ」
長老に諭され母は口を噤む。
「よしのぞみよ! 行くがいい! 」
村の者も大騒ぎ。手を振るのでこちらも返す。
「頑張れよのぞみ! 」
「おいおい。俺もいるって」
サブニーはいつになくはしゃいでいる。
「たかが一泊じゃないか。大げさな奴らだ。なあ? 」
そう。僕に残された時間はあまりない。明日の晩まで。それまでに目的を果たし戻ってこなければならない。
「サブニー行こう! 」
「おう。そうだな」
二人は旅立った。
<続>