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外の世界

料理の用意が間に合わず。お食事まで間をつなぐことに。


何を言うべきか。何を聞くべきか迷っている。

伝記について詳しく教えてもらおうか。

しかし酔っぱらっていては当てにならない。

やっぱりあのことについて相談してみようか。

なかなか決められず母を見る。

母もこちらを見るばかりでおろおろと頼りない。


長老は盃を満たすと一気に飲み干す。

二度三度と繰り返したところで口を開く。

「のぞみよ。お前はもう立派な一人の大人だ。何かやってみたいことは無いか?

儂でよければ協力するが」

チャンス。

せっかくのチャンス。見逃してなるものか。

「長老様。僕は町に行ってみたいです」

「そうかそうか。町と来たか」

「こら! のぞみ! いい加減にしなさい! 」

案の定、母は反対に回る。でも関係ない長老に頼んでいるのだ。

母も長老のお墨付きがあれば僕の願いを聞いてくれるはずだ。

「いやいや。この年頃は村の外に興味を持つものじゃ」

「長老様? 本当によろしいのですか? 」

「儂は構わん。まあお前ら夫婦の許しがあればこちらとしても文句ない」

長老が賛成に回った。母も従うしかない。

「我がひ孫もこれくらい勇敢でなくては困る。のう。そうじゃろ? 」

はっはは!

赤ん坊にデレデレの長老。

もはや威厳などない。

「やった! 」 

喜びを爆発させる。

長老の前なのでこれでも控え目に抑えている。


「そうかそうか。うんうん。大きくなったのう…… 」

自分の世界に入ったので呼び戻す。

「長老! 長老様! 」

「おう。済まん済まん。それでどうする? 」

「でも長老様…… 」

母は険しい表情で長老を睨む。

「大丈夫。一人で行かせるものか! 」

「そうですよね。ああ良かった」

「よし三郎にお供を任せよう」

「三郎さんですか…… 」

「サブニー? やった! 」

「そうだったな。お前は三郎に懐いていたな」

サブニーこと三郎は長老のところの孫。面倒見のいいお兄さん。

「いつ行きたい? 」

「なるべく早く行きたいです」

「こらのぞみ! 」

「よしよし。では二日後でどうだ? 」

「わーい」

町に出ることを許された。


「それでなぜ町に行きたいのだ? 」

「なぜ…… 」

「もちろん理由があるのだろ? 言ってみよ! 」

「そ…… その…… 」

口ごもる。

「まさか大した理由も目的もなく町に行きたいなどと言うまいな? 」

「実はもっとたくさんの人に会ってみたいのです」

「うん。どういうことじゃ? 」

「この村にはこの赤ん坊を含めても五十人にも満たない。

小さい頃はこの村がこの世界が全てだと思っていました。でも違うんだって教えてもらった。世界にはもっともっとたくさんの人がいるって町から来た人に教えてもらった。僕、外の世界を見てみたい。この村では体験できないようなことがしてみたい」

「ほうほう」

「たからが言うには人はこの村では考えられないほどいるって」

「たからとは…… あああそこの子か」

「僕には信じられない。でも町から来た者はたくさんいるし…… だから確かめたいんだ」

「何をじゃ? 」

「町には世界には人がいるって。百人以上いるって」

「馬鹿ねぇ。人はそんなにいる訳ないでしょう。

せいぜい十人や二十人よ。町の人の言うことを信じちゃだめよ」


明らかに嘘を教える。

だが彼女も知らない。この町を出たのは数えられるぐらいだから。

この村の者はほとんどがそう。

この村以外には人など住んでいない。

いてもそれはタヌキかキツネが化けた物。妖怪か鬼。

町にはまともな人間などいない。

そう教えられてきた。

大人も子供も。

この狭い空間だけにいれば人は誰も疑わない。

平和な暮らしが保たれる。

大人はそれでいいかもしれない。だがのぞみたち子供は真実を知る必要がある。

それが彼らの将来につながる。

 

「よろしい。お前の好きにするといい。その眼で真実を確かめよ」

「よし飯にしよう」

長老が手を叩くと豪勢な料理が運ばれてきた。

鳥や山菜。魚に畑で採れた新鮮な野菜。

猪鍋まで。

昨日仕掛けていた罠にかかっていたものだ。

僕もお手伝いをしたのでよく覚えている。

サブニーがフザケ過ぎてもう少しで取り逃がすところだった。

僕とたからは運ぶ仕事。

二人でも全然持ち上がらない。仕方なく大人たちに手伝ってもらった。

たからはもう嫌だって文句言ってたけど僕は次もお手伝いするつもりだ。


鍋と鳥を平らげて満腹。

野菜も食べるように叱られたがもう食べられない。

美味しものだけ食べて横になる。

「こらのぞみ! 失礼でしょう! 」

ついには雷が落とされてしまう。

正座で大人しくしているしかない。

散々怒られて長老宅を離れる。

いい思い出がいつの間にか辛い記憶に。


                 <続>

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