支離滅裂
「待ってろよのぞみ! 俺が助けてやるからな! 」
先ほどから勇ましいがいまいち頼りない三郎さん。
「ねえ。この辺はもう探したから次に向かいましょう」
いつまでも同じところを探しても時間の無駄だ。
これだから素人は……
「緑子さん! 」
「よく聞いて。のぞみ君は迷子になってるはず。もしかしたら歩けなくなったのかもしれない。
でも少なくても声は出せるでしょう? だったら私たちの呼びかけに反応しない訳がない。
だからこの辺りには居ないと判断すべき。まだ探してないところはない? 」
「ええっと…… 反対側はまだ…… 皆で手分けして探していると…… 」
「とりあえず行ってみましょう」
山方面へ。
……ああ……
「緑子さん何か聞こえませんでしたか? 」
「ええ。女性の悲鳴が聞こえたような気が…… 」
三郎が音のする方に走り出した。
「たぶんこっちだ」
「任せたわ。急ぎましょう」
後に着いて行く。
やはり女性の声。助けを求めているようだ。
これはまずい。
急がなくては手遅れになる。
三郎の耳に頼るのは少々不安。
念のため連絡を入れる。
「本当にこっちなの? 」
「何してるの緑子さん早く! 」
三郎は迷うこと無く走り出した。
もう疲れたよ。足が重い。
きゃあ!
突如叫び声が響き渡った。
お姉さん?
どうしたんだろう?
近い……
疲れた足を庇いながら歩き出す。
きゃあ!
またお姉さんの声がする。
どうしよう。怖いよう……
恐怖から急に体が動かなくなった。
怖いよう…… 怖いよう……
サブニー!
「どうしました? 」
「今報告が入った。女性の叫び声がしたそうだ。緑子君は現場に向かっている」
「それは大変だ。我々も急ぎましょう」
ようやく本気になったようだ。
だが今さら遅い。もう完全に後れを取っている。
仮に無事確保できたとしてもそれはもはや我々の手柄ではない。
「急ぐぞ! 」
「はい! 」
「おいおい。そんなに叫ばなくたっていいだろ? 」
「きゃあ! 変態! 」
「馬鹿な。俺はそんな趣味はないさ。ただちょっとだけ大人しくなってもらおうってだけだ」
「きゃああ! 」
「大人しくしろ! 」
刃を向け黙らせる。
「わ…… 分かったわよ」
千鳥足で気持ちよさそうに歩いていた無防備な女。
さすがに罠ではと様子を窺っていたが動きは酔っぱらいその者。
夜祭ではしゃいでしまったのだろうがまさか一人とは。
「どうした? 俺のことを知っているのか? 」
「知らないわよあんたらのことなんて! 」
「まだそんな口を聞くつもりか? 」
「どうせあんたらもそこら辺の男と同じなんでしょう。まったく嫌らしいわね! 」
「さっきから何を言ってやがる。本気で刺すぞ! 」
「ふふふ…… 坊や。まだお姉さんの相手には早いんじゃない」
イカレタ女がイカレタことを喚いてやがる。
もうこの際ださっさと済ましてしまおう。
「ほら坊やこっちに来て。はっはあはあふう…… 」
おえええ!
「うん何をやっている? 」
「ウエップ…… 気持ち悪い…… 」
背を向け胃の中のものを吐き出した。
凶悪な逃亡犯を前に無防備にも背中を向けるとは……
刺してごらんと言わんばかりだ。俺を舐めているのか?
「ちょっと坊や。何でもいいから拭く物をちょうだい」
くそ。なんでこんなイカレタ女の世話をしなければならないんだ?
「ふうう。助かった。それで何だったけ? 」
「俺を見ろ! こんな時によくも…… 」
「あら可愛いじゃない坊や! 」
「坊やは止めろ! 強がりを言うな! 」
「だって…… お姉さんはもう飲めない…… 」
もはや支離滅裂。
酔っぱらいとはこうも面倒臭いとは関わるべきではなかったか。
「どうしたの? 」
いっそのことこのままあちらの世界に送ってやるか?
「もう飲めない! でももう一杯! 」
「ふざけるな! 」
「もう大声出さないでよ。頭痛いなあ」
「おい! 」
「もう付き合いたいなら早く言ってよね」
「いい加減にしろ! 俺は殺人鬼だ! 」
「殺人鬼? 坊やが? ふふふ…… あっははは! 」
「笑うのは止めろ! もういい! 」
「ごめんなさい。それで何? 」
「ようやく聞く耳を持ったか。今から俺が直々にお前を血祭りにしてやる」
「あらお姉さん困っちゃう。えへへへ…… 」
「おいよく聞け! 俺を見ろ! 」
「はいはい」
「怖いだろ? いいんだぜ叫んだって。だがなその瞬間お前はお陀仏さ。どうだ参ったか? ははは! 」
「お姉さん…… 」
ナイフを振り上げる。もうこれ以上好き勝手させない。
「あなた誰? 」
「そうだな。最後に自己紹介ぐらいしてやるか」
「ううん。君じゃない。そっちの子」
「はああ? 何を言ってやがる? 」
「だからあんたじゃないの。隣よ。ああ、あなたじゃないわね」
「そう君。君。もうこの男を何とかしてよね」
「おい! さっきから何を言ってやがる! 」
「だからあんたじゃないってさっきから言ってるでしょう! 」
「三人組のいけない坊やたちなんだから。お姉さん相手しきれない」
「三人? 」
「ええ。三人組でしょう。違うの? 」
「お前には三人に見えるのか? 」
「当たり前でしょう。坊や」
言葉を失う。
「ふふふ…… 」
「どうしたの坊や? 」
「邪魔したな! 」
ナイフを収め歩き始める。
またしても失敗。
今回の敗因は慎重さ。いや優柔不断が招いた結果だ。
さすがに仲間は殺せない。
拘っているわけではないが非情になりきれていないのは確かだ。
次こそは絶対に仕留める。
もう迷いはしない。
待ってろよ!
闇に姿を消す。
<続>




