骸
暇潰し程度のお遊びに付き合わされ、頑なに拒否したにも関わらず見ることを強要され、ついには発症してしまう。
こうなってはどうすることもできない。下を向くことも目を瞑ることもできない。
奴らの悪ふざけでついに覚醒してしまう。
『カテゴライズシンドローム』
一つの塊になった物体。
くっ付いたその物体は勢いよく向かってくる。
「どうしたお前? おかしいぞ! 」
俺を抑えつけていた大男が異変を察知し慌てて逃げ出した。
最悪なことにこれでもう誰も止められない。
これは……
無造作に置かれていたナイフを掴む。
止めろ! 止めろ! 止めてくれ!
目を瞑りナイフを振り回した。
そしてすべてが消え去るまで続けた。
元に戻った時そこに人は存在していなかった。
何人かは逃げ何人かは血の海に消えた。
やってしまった。俺が…… 何てことをしちまったんだ!
激しい後悔の念に苛まれる。
うおおお!
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめん……
ふふふ……
あれだけ忠告したのにまったく馬鹿な奴らだ。
自分で自分の首を絞めるとはな。自業自得だ。
俺が悪いんじゃない。
奴らが間抜けなんだ。
これは仕方なかったんだ。
正当防衛だ!
俺は悪くない! 悪くない! 悪く……
どうにか取り繕い自分の心を保つ。
警察が来ることは無かった。
奴らはここで人には言えないようなやばいことをしていた。
だから駆け込むこともできない。
息絶えた仲間を置いてそのままこの町から出て行ったようだ。
戻ってこないのが何よりの証拠。
俺は仕方なく処理をすることにした。
二体もあるので大変。
そのうち飽きてしまい骸を転がす。
まあどうせ後でやればいいさ。時間はたっぷりある。
問題は腐臭。
まあいいか。もう慣れたし。
うん? 何か寂しそうだ。
二体じゃかわいそうだよな。
よし俺がもっと仲間を増やしてやろう。
待ってろよお前ら!
初めて持った時のあのナイフの感触が忘れられない。ナイフの虜になっている自分がいる。
これはもうしょうがないよね?
こうして夜な夜な仲間を求めて狩りに繰り出す。
俺が悪いんじゃない。奴らが可哀想だから仕方がないんだ。
もう罪悪感に苛まれることは無くなった。
仲間が一体二体と増えて行った。
倉庫に帰って来ては順番に並べる。
その作業を繰り返す。
ああ心が落ち着く。
こいつらを見てもくっ付くことは無い。
生きてはいないのだ。
ただの物でしかない。
ほら君たちご主人様に挨拶をしなさい!
そう言えば医者も言ってたな。
物では発症しないだろうと。
うん。確かにその通りだった。
生きているから起こり得るのだ。
解放された気分だ。
うおおお!
解放されたんだ! そうだろ?
もちろんこいつらは何の反応も示さないが……
そうして今に至る。
あの変態野郎に全て見られていたとは思いもしなかったがな。
仲間だと思ったのに……
覚えてろよ!
でももう潮時だったのかもしれない。
あの倉庫ではもう隠しきれない。
一ヶ月に一回人がやって来て確認して回る。
それが三日後に迫っていた。
遺体を全て隠すのも億劫。
別に見つかろうと構わない。また新しい寝床を探せばいいのだ。
そして通報される前日に事態は急変した。
最後の遺体を運んだ時だった。
順番に並べていくうちに奇妙な現象が起こった。
くっ付いたのだ。
遺体はもう物でしかないはずなのに。なぜかいつの間にかくっ付き始めた。
頭が混乱する。
今までこんなことは無かった。
どうして……
心のどこかで恐れていたことが起きた。
有り得ないはず。
医者だって言っていたのに。
なぜ遺体がもう物でしかない骸がくっ付くのか?
俺には信じられなかった。
物でもダメなのか?
いや遺体は物ではないのか?
生者が優先される。
死者は何の意味も権利も持たないはず。
いくらそのものが尊かろうがいや尊かったとしても。
いくら生者が極悪非道であろうと。
その間には歴然とした差があるではないか。
違うと言うのか?
もう自分には分からなくなっている。
ついにくっ付いた骸は一つの物体へと変わる。
骸というカテゴリーに分類されてしまった。
そうなってはもうどうすることもできない。
俺は向かってくるその物体を切り刻むしかない。
だがまったく効果が無く再び襲ってくる。
止めてくれ!
来るな!
止めろ!
うおおお!
襲い来る物体から逃げるように倉庫を離れた。
思えば錯覚だったのかもしれない。
だがあの恐怖から逃れそうにない。
夢で繰り返されるのだから。
こうして凶悪犯として追われる身になった。
俺は間違っているのか?
いや違うはずだ。
もう俺は前を見ることさえできないのか?
人を数えることも物を数えることもできないのか?
最悪なことにナイフの感触が忘れられない。
もうどうしたらいいのだろう?
せめて最後に数えることができたなら……
世界が百人かどうかも確かめられるはず。
諦めない! 確かめられる時が来るまで。
そう決めたんだ!
おっと過去に囚われてしまった。
今は逃げることを考えなくては。
奴らも馬鹿じゃない。こちらの狙いに気付いてるはず。
もう逃げる場所は山奥しかない。
人の来ない田舎でひっそりと暮らしたい。
山入り口へ。
<続>




