直接対決
少し前。旅館から小さな影が飛び出した。
真っ暗な道に足を踏み入れる少年。
まさかもう旅館に戻ってるとも知らず呼び続ける。
「サブニー? どこ行ったの? 」
「おーい! おーい! 戻ってきてサブニー! 」
「僕だよ。のぞみだよ」
まさかサブニーに何かあった? 駆けつけられない何かが起きた?
僕には想像もできない何かとんでもないこと。
分からないけど怪我とか急な病気とか。でも昼間は元気だったしなあ……
まさか草むらに突っ込んだ時に頭でも打っていたのかな?
あーもうどうしたらいいんだろう。
真っ暗闇を当てもなく歩き続ける。
さっきまで旅館の周りを歩いていたのだがいつの間に知らない場所まで来てしまった。ここはどこだろう?
サブニーを探しているうちに迷子になってしまったようだ。
もうどうしようもない。
とにかく進むしかない。
真っ暗で足元がよく見えない。
うわああ!
足を取られる。
危うく滑って下り坂を転げ落ちそうになる。
こんな場所あったかなあ?
まあいいや。もう少しすれば旅館に着くだろう。
闇雲に歩き始める。
しかしいくら経ってもいくら歩いても旅館には戻れない。
せめてサブニーを見つけられたら……
「サブニー! 」
「サブニー! 」
「誰か! 」
もう疲れて足が動かないや。
仕方がないなここで一休みしよう。
僕はここだよ。
お願い。早く帰ってきて! サブニー!
「おーい! 」
のぞみは依然行方不明。
「どうしましょう? 」
「遠くには行ってないはずだ。この辺りを探してくれ。俺は祭りの方に行ってみる」
「分かりました。お気をつけて」
手の空いてるものを呼び捜索隊に加わってもらう。
もう一刻の猶予もない。
まさか凶悪犯がうろついてるなんて最悪だ。
凶悪犯もまさかあんな小さな子を襲うはずないわよね……
いくらなんでも考え過ぎ。悪く考えればきりがない。
今はあの子の無事を祈るしかない。
大人しくしていれば狙われることもない。
ただここで私たちが騒ぎ出せばあの子の存在に気づかれてしまう。
そうなったら音と動きですぐに察知されてしまうかもしれない。
絶対に動いちゃだめよ!
うん……
待って…… 無差別だとすればあの子は危ない。でも私たちも気をつけなくてはいけないのでは?
下手に動いて襲われては元も子もない。
ここは慎重に。慎重に。
絶対に離れない。絶対にはぐれない。
本当に困ったことになってしまった。
まだ近くにいるかもしれない。
でもそれが男の子なのか? それとも凶悪犯なのか?
大声を出したくても出せない。
捜索隊は動きが制限され価値が見いだせなくなっている。
一人きりなるのは絶対にダメ!
でも二人だったら?
三人では?
襲われない保証など無い。
人を殺すのにもう何のためらいもないはず。一気に複数を襲うことだってあり得る。
せめて明るければいいのだけど。
狼のもとに複数の子羊が放り出された。
囮でなければ最悪の事態を招きかねない。
その頃、緑子にまとわりつく黒い影。
もうダメ! これ以上は耐えらない。
振り返る。
闇で見えないがたぶんすぐそこにいる。
息遣いがする。
あちらもしびれを切らしたようだ。
「あなた私に一体何か用? 」
できる限りの声を振り絞って先手を取る。
影はうろうろするばかりで一向に近づこうとしない。
それならこちらから伺おうかしら。
こういう時の為に格闘技を習っている。
パンチとキックを繰り出す。
怯んだ隙に笛を吹く。
あくまで攻撃は振りだけ。目的は笛で犯人を動揺させること。
ではフィニッシュと行きましょうか。
「あなたが何者かは知らない。でも私に敵うかしら」
「私はね。こう言う者よ」
身分証を見せ相手を更に動揺させる。
見えているかは正直分からない。
でも何かを提示しているのだから効力はあるはず。
例えそれがハッタリだとしてもだ。
男は意味が分からないとばかりに声を発する。
効果あり。
思っていたよりも若い声。
まさか私よりも年下? そんな訳ないか。
「私は捜査官なの。悪いけど大人しく捕まってね」
男の手が動いた。
暗闇に鋭く光る物が見えた。
「馬鹿な真似は止めなさい! 大人しく捕まりなさい! 」
男は刃物を持って襲ってきた。
「ちょっと止めなさい! 」
距離を取り笛に口をつける。
笛を思いっ切り吹く。
やはり一人では無理そうだ。
誰かお願い! 早く助けに来て!
ハッタリも脅しも効かない。
彼の頭はもう一つのことでいっぱいだ。
そのナイフで胸を貫くこと。
冗談じゃない。誰か助けて!
もう体力の限界。
逃げれば後ろからやられてしまう。
さあかかってきなさい!
男はゆっくりと間合いを詰めていく。
笑っている?
表情は暗くて良く分からないが薄気味悪い。
ああもうダメ!
へへへ。
「ようやく観念したか。まさか俺を追いかけていたとはな。笑える」
声は聞こえても顔までははっきりしない。
「よし。命乞いをしてみろ俺は優しいから気が変わるかもしれんぞ。
そうだあの間抜けを呼んでみろ。お前の男をよ」
「何を言ってるの? 」
「とぼけなくたっていいだろ。祭りを一緒に楽しんでいたじゃないか」
「あなたまさかいたって言うの? 」
「ふふふ…… まあいい。もう命乞いもいい。そろそろお楽しみの時間だ」
男は一歩踏み込む。
勢いをつけて振りかぶる。
「こら! 何をやっているか! 」
怒声と共に向かってくる影。
「大人しくしろ! 」
「くそ! もう少しだったのに。お楽しみはまたの機会にお預けだ」
そう言うと駆けて行った。
「追え! 逃がすな! 捕まえろ! 」
「大丈夫か? 」
「ええ。何とか。ありがとうございます」
鈍足の部下はもう息を切らし戻ってきた。
「すみません。見失いました」
「いやいい。深追いは良くない。暗闇は奴の方が得意だ」
「助かりました」
「緑子君。けがはないか? 」
「はい。まったく」
「とにかくここを離れよう」
三人は合流を果たした。
<続>




