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希望

山奥の小さな村。

閉鎖的な村で人口も五十人にも満たない。

お年寄りの数は年々増加傾向。

基本自給自足。

年に一度の村祭りや交流会以外稼ぐこともできない。

たまに村の収穫物や陶芸品や織物などを売り歩くことでなんとか村は生き残っている。

長老の強い支配に置かれて厳しく統制されている。

その為村の若い者を中心に流出が止まらない。

稀に自然豊かな田舎生活に憧れてやってくる町の者もいるにはいるがなかなか馴染めずに数年経って戻ってしまう。

定住したのは僅か三世帯。

それも六十をとうに過ぎた老人ばかり。

結局村には老人ばかりが残ってしまった。

 

だが希望も残されている。

村唯一と言ってもいい若夫婦に待望の赤ん坊が生まれた。

それは今から十二年前の話。

今では村から出て行った出戻り組が村を盛り上げている。

村の存続も視野に入るようになってきた。

後は町から移住する若者が出てくることが絶対条件。


「ほら早くおいで! 」

「うーん。もうちょっと。これを読み終わったら…… 」

「ダメです! 」


読み始めたら止まらない。

今は偉い人の本を読んでいる。

この村の長老の奮闘記。

十巻もある大長編だ。もう三巻まで読んでしまった。

面白いかと問われればそうでもないが村の歴史も詳しく載っており読んで損はない。

問題は子供が読める本といったら後は絵本ぐらいなもの。次はどうしようかと真剣に悩んでいる。


「ほら早く! 置いていきますよ」

「今行く! 」

「のぞみ。早くしなさい! 」

「はーい」


僕は希望。今年十二歳になった。

十二歳と言えばもう立派な大人だ。

だから自分のことは自分で。

急かされるのが大嫌いだ。


「のぞみ! ほら長老様のところに行くよ! 」

のぞみなんて女の子っぽくて嫌だ。

でもまだましな方だと最近になって気づいた。

もう一つ案があったのだがそれは宝。

そんな大げさな名前にされたら恥ずかしくて外も歩けない。


「ほら。赤ん坊見に行くんでしょう? たからちゃんはもう見せてもらったってよ」

たからちゃん。それは僕から受け継がれた名前。

同い年の女の子。

いつも引っ込み思案の所があるけど僕の前だとワガママで下品。

みんなの前では猫をかぶっている。嫌な女。っていったらかわいそうだからかわいい女の子としておこう。笑うと褒められるから不思議。僕も笑うだけでみんなに良くしてもらいたい。

まあ幼馴染って奴かな。

数少ないこの村の女の子。

村のアイドルだ。

僕は認めてないけどね。


母に連れられて長老宅へ。

歩いてすぐのぼろぼろだが立派なお家。

立て直すとかぶっ壊すとか話していたけど長老が元気な間はそのままにするって言ってたっけ。

「いらっしゃい。主人なら奥の部屋にいます。勝手に上がって行って」

招待客のおもてなしに余念がなく忙しなく働いている。その為今は手が離せない。

しかしそう言うわけにもいかない。呼ばれたとはいえこの村のリーダー。長老様だ。失礼があってはならない。日頃からそう教えられていたので母と待つことに。


若い女性が姿を現した。

彼女は長老の孫娘で葵さん。旦那さんと町から戻ってきたいわゆる戻り組。

これはサブニーの情報。

挨拶を済ませ奥の部屋に通される。。

「おお。来たか。見てくれこの赤ん坊をよ」

長老様はいつになくご機嫌。酒も入ってまるで人が違っている

いつもの険しい表情が緩んでいる。

長老としての威厳は見られない。

「この子が今月生まれたばかりのひ孫。かわいいじゃろ? 」

自慢されても僕からは何ともただの猿としか……

母が取り繕う。

「かわいいですね。男の子ですか? 女の子ですか? 」

「この子はもちろん男子じゃ。儂に似て強そうじゃろ? 」

「そうですわね。長老様の若い頃にそっくりですわ。凛々しいお顔」

長老は気を良くしたのか酒をふるまう。

もちろん僕は断るが一杯だけと無理矢理飲まされる。

「もう十も二じゃ。酒の一杯や二杯」

儀式として酒を含む。

「よし食事にしよう」

パンパン。

手を叩くがお食事は出てこない。

「ちょっとお待ちください」

時間がかかるらしい。

残念。

せっかく豪勢な料理が出てくると期待していたがお預けを喰らうなんて。

僕にとっては食事がメインなのに……

仕方がないできるまで長老の相手をするか。


                <続>

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