カテゴライズシンドローム
さっき会ったばかりの男に打ち明ける。
「医者に見捨てられたんだ。結局俺の言ってることを信じちゃくれなかった。
分かるか俺の気持ち? 」
記憶を辿る。
あれはだいぶ慣れてきたある日のことだった。
「先生! 」
「どうだい調子は? 」
「悪くなる一方です」
正直に答える。
「まさか。薬を飲んでいないのか? 」
「先生が処方した薬は精神を安定させる薬。まったく役に立ちませんでしたので三日で服用をやめました」
「そんな馬鹿な! 他にどうしろと言うんだ? 」
「俺はくっ付いてしまう症状をどうにかして欲しと思って……
俺のせいなんですかね? 俺に問題があるのではなくあいつらに問題があるんだ!
俺は間違っていない。狂っているのは奴らなんだ! 」
怒りが込み上げてくる。
「落ち着いて。興奮しない! 」
「すみませんつい…… 」
「私を見なさい! どうだいくっ付いて見えるかい? 」
首を振る。
「よし君」
看護師を呼び止める。
二人が目の前に。
「どうだ? 」
「いえ。まったく問題ありません」
「では三人ではどうだ? 」
一人増やす。
「ええっと…… うん。今のところ大丈夫…… 」
一度目を離し再び三人を見る。境目が消えくっ付き始め、一つの物体となってしまった。
「くそ! ここまで悪化しているとは想定外だ」
ドクターは頭を抱える。
落ち着いて対象から目を離し下を向く。
ゆっくりゆっくり。
元の状態に戻るには時間を要する。
意識しなければ、見続けなければ、認識しなければ解消される。
じっと我慢。
「先生! 」
「こんな症例は初めてだ。最初は思春期特有の病。それも一時期的なものだと楽観視していたがまさかここまでひどくなるとは思わなかった。悪化の一途を辿っているじゃないか」
「それで先生。何と言う病気なんですか? いつになったら治るのでしょう? 」
「そうだな。思春期精神不安症候群とでも言うのかな。分からんけど」
「思春期…… 何ですか? 」
「そうだな。病名を無理につけろと言うならこうだ」
『カテゴライズシンドローム』
「何かお洒落ですね」
「ああ。格好いいだろ? 今さっき思いついた。世界初の症例だからね。海外の学会で発表しようかと思う。協力してくれるね? 」
「治ってからお願いします」
「しかし何度も言うが初めての症例。この私にも治し方など到底分からない。
だからこそ処方された薬は必ず飲むように。
完治しないにしても症状を和らげてくれるはずだから」
「約束してくれるね? 」
効き目は薄いと分かっているがもう一度試すことにした。
「よしこれまで。またおいで」
二週間後。
「どうだい症状は? 」
「はい。今のところ治まっています」
「そうだろ。医者の言うことは聞くものだ」
この時もそうだった。
俺はついつい話を合わせてしまう癖がある。
良くなったかと聞かれればそれは心の持ちようだからそうだと答えてしまう。
決して適当に答えているわけでもない。
話がスムーズに進まないと良くないのではと気になってしまう。
医者はもちろんイエスにしろノーにしろ用意があるはず。
しっかり答えるのが患者の務め。
だが医者も商売。
混んでいれば次が気になる。時間も気になる。
俺は円滑な進行の為自分を犠牲にする。
それが楽だから。
面倒臭くないから。
早く終わるから。
いい加減になってしまった。
でも症状が悪化することもない。このままでも問題ない。
逆にストレスになるぐらいなら……
完治しないと分かっているから悪化しないなら薬だって……
気をつけてればいいのだ。
大丈夫。大丈夫。
何が問題なんだ?
どこが違うんだ?
そう思いながら惰性で通っている。
最後にいつもこう聞く。
「いつになったら完治するんですか? 」
医者は濁す程度で真剣には向き合ってくれない。
もう飽きたのだろう。
金にもならないようだから止めたっていいのにな。
家に大量に余っている薬をどうにかしないと。
そして次が最後となった。
二週間後。
「どうだい最近は? 」
他愛のない話でこちらの様子を探る。
別に何も変化が無いのであまり変わりませんよと答える。
「うん? 」
「飲んでも飲まなくても…… 」
「おい! まさか薬を飲んでいないのか? 」
「はい。自分でいろいろ試しているところです」
もう二か月近く飲んでいない。
そのことを医者に悟られる訳にはいかない。
「なぜだ? 君がどれだけ危険な症状か自分で分かっているはずだろ? 」
「ええ。でも効き目が薄くて…… 」
「そんなことは関係ない! 君の為を思って言っているんだ! 薬を飲みなさい! 」
「でも完治しないんでしょう? 」
「今懸命に治療方法を見つけている。似た症状の患者が参考にならないかどうか探っているところだ。
少なくても来年までには何らかの結論が出るはずだ」
「それまでは大人しく薬を飲むんだ。いいね? 」
やはり隠していたか。情報を患者に隠すとは呆れた。
結局何も分からない。
何もできない。
医者も当てにならないな。
そんな感想しか出てこない。
約束を交わし診療を終える。
まったくいつも何の役にも立たず時間だけを無駄にする診療。
待ち時間も短くても一時間は絶対にかかる。
お金だって少しとは言え馬鹿にならない。
もうここらで止めるか。
もちろん薬だって飲むものか。
今日でお終いだ。
もういい。
サボってやる。
解放された気分。
ああ気持ちがいい。
これ以降薬をを飲むことも通うこともなく今に至る。
「あの時は無駄に感じたんだよな。誰も理解してくれないし周りには気持ち悪がられるし。
医者だってそうだ。
でも今思うと大人しく従っていればなって…… 」
独白を終える。
「お前も色々あったんだな。別にどうでも良いがな」
ドンドン
ドンドン
扉を叩く音がした。
どうやら戻ってきたようだ。
<続>




