第2話 探索(Search・Research)
俺の生き方は変わった。
通学路のあの十字路は、俺にとって足の踏み入れられない鬼門になった。
俺は、せめてものつぐないの方法を求め、心霊現象やら、予知能力の本を読み漁った。
ネットで、あちこちにオカルト関係のコミュニティを覗き、同じような経験をしている人を探した。
俺はこれでも、一応は理系だ。
きちんとした検証がないものは、信じないと決めている。
大部分の、いや、ほとんどすべてのコミュニティは、俺の検証の篩に残ることなく滑り落ちていった。
ただ、そうは言っても……。
1つだけ妙な、そう、妙としか言えないコミュニティを見つけてはいた。
表のコミュニティの掲示板のやり取りは、他愛もないと言えるほど、オカルト風味を楽しんでいる人たちの群れだった。
今どきなら、L1NEなりでもっと閉じた形だってできたはずだ。
なのに、オープン空間のままで、すべてが二重構造に形作られているように俺には見えた。
まずは話題。
あえて、意味を逆にした方が話が通る、そんな書き込みがあるのだ。なんて言ったら良いのかな、嘘を付くのが下手なタイプが2人いることから、こんな推測が可能になった。
そうこうしているうちに、意味を逆にする時のキーフレーズが割り出せた。
複数のそのキーが有るときだけ、書かれた文の意味が逆になり、話の筋が通る。そして、その中身は看過できないものだった。
次に人間関係。
こちらも、明らかに二重構造になっていた。
キーを使う人間と使わない人間と。
そして、キーを使うコアとも言える数人の書き込みには、妙な法則性が感じられた。
おそらく、俺のような本気で探している外部の人間に、見つけられるようにしてくれているのだ。
もしかしたら、同じような経験をした人がここにならいるかも知れない。
俺は過去ログを漁り、観察を続けた。
そして、そのキーフレーズを使う数人の身元をあぶり出した。
二十歳代半ばの社会人のお姉さんを中心とする、若い社会人と高校生たち。
話の内容から、社会人の会社はすべて異なるし、高校生もほとんど同じ高校ではない。ついでに言えば、どう確認しても、彼らに宗教色はなかった。
せいぜい、クリスマスだ、初詣だという程度。
つまり、危ないカルト宗教の手のこんだ勧誘ではない。
ただ、共通しているのは、全員が中央線沿線にいること。
これなら、もしかしたら特定が可能かも知れない。
唯一同じ高校に通っている2人をターゲットとして、徹底的に絞り込みをかけた。「○日から○日まで試験だ」とか、「今日は英語と数学」なんて書き込みから高校を特定するのはそう難しいことじゃなかった。同時に学年も割り出せたし、男女を特定し、伝手と縁をたどってクラス名簿を手に入れた。文字通りの、友達の友達はみんな友達だ。
俺の「ちょっと見ただけのJKに一目惚れして、なんとしても突き止めたい」という、そんな言い訳が通用するのは、俺も高校生だからだ。でなければ、通報されてもおかしくなかった。
あがくことで、人はドツボにはまる……、のです。