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生命の代償  作者: 林海
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第11話 交渉(Negotiation)


 そう考えれば、あとは早かった。

 俺は、悪魔召喚の儀式と呼ばれるものから、時空に影響を及ぼしそうなものだけを手当たりしだいピックアップした。

 要は、何らかの波動を持つ行為だけを選びだしたんだ。


 いわゆる悪魔の召喚の儀式だって、科学の観点から法則化すれば、自ずからわかってくることもある。

 だって、例えばコウモリの羽と処女の経血を煮込んだって、気持ち悪い以上のなにが得られるもんでもないと思う。でも、音でも光でも波動であれば、空間に何らかの影響を与えるだろう。


 俺が2日の徹夜の末、自分なりに洗練された儀式を行えたのは113日目のことだった。

 俺は香を焚いた部屋で、悪魔を迎えた。

 香はそれ自体、召喚に対してなんの意味もない。でも、空気の振動を可視化するのには便利だ。

 科学という視点で儀式を見直せば、いろいろなことが納得できるもんだ。


 俺にとっての目標は、人を殺した自分の命でその罪を償うとともに、生命を失うことによるエネルギー開放で、美子さんの死の分のエネルギーを賄ってすり代わること。

 時空の外の存在とのアクセスは、そのすり代わることを確実にするための、時空外からのサポートの依頼交渉だ。



 悪魔という実体が俺に見えているわけじゃない。

 でも、そこにいきなり臨在感のあるなにかが現れたのは、俺にだってわかった。

 手当たりしだいの儀式を組み合わせているから、なんと呼ばれる存在かなんてわからない。

 それでも、温度計はたったの数秒で5℃も下がっていた。さらに、赤いアルコールの液面は下がり続けている。

 天上から30cmおきにマトリックスを作って垂らした透明なナイロンの細糸は、部屋の臨在感に向かって大きく揺れている。

 そして香の煙は、なんらかの巨大な生物の呼吸を示すかのように流れている。


 当然動画も撮ってはいるけれど、間接的な現象しか映らないだろう。悪魔本体が撮れるはずはない。それでも、今この部屋にいる臨在感の存在は否定のしようがない。


 俺は口を開く。

 もしかしたら、悪魔と俺は、哲学的な意味の階梯が違って、論理の摺り合わせができないかもしれない。でも、そのような結果になろうとも、まずは交渉してみなければ。



「とりあえず、俺は73歳まで生きるはずだ。

 その残りのすべてを注ぎ込んで、代替えしたい命がある。

 そのために俺は2日後、すり替わりをする。

 俺の56年を渡したいから、そのすり替わりを手伝ってくれ。

 代償は俺の魂だ」

 俺は口から言葉を絞り出す。

 

 日本語が通じるとは思わない。

 でも、向こうが人間の思念を読む、読めるのであれば、俺の考えは伝わるはずだ。

 そして、悪魔召喚の歴史は、交渉が可能なことを示している。

 俺はそれに賭ける。


次話、契約

に続きます。

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