後夜祭はバンドしがち
文化祭当日。俺たち一年生の文化祭実行委員は、仕事はないが、来年度以降の糧とするという名目で、先輩方の補佐ということになって仕事を手伝わなければならない。もし、このまま生徒会になるというのなら、なからず通らなければならない道なのだから、こうして体験することができるのはありがたいというものだ。
会場の設営もほとんど終わり、俺たちは集められていた。決起集会、ということらしい。
「よし。今日は待ちに待った文化祭だ。とにかく、君たちには楽しんでほしい。自分たちが作っている祭りだということを自覚できるというのは何にもまして大切な経験となるはずだからね。とにかく、楽しんで!」
冴子先生だった。ここにきて、彼女がこの文化祭の担当教員だということを知ることになった。この文化祭、先生方も保健所への確認とか、経費関係とかで大変らしい。通常の授業準備でも大変だと聞いているけれど、それにまして大変だというなら、俺たちの大変なんてへでもないんだろうな。これが大人ということか。
ぞろぞろと各々の教室に向かっていく文化祭実行委員と、生徒会の面々。藍子は少し寄り道をしてから教室に向かうというので、俺は一人になっていた。
すると、「きみー」と肩をとんとたたかれた。
振り返ると、そこには、髪色が明るめの、どう考えても学年一位には見えない先輩がいた。
「君のでしょ?このハンカチ。さっき落としているのを見たからさ」
「あ、ありがとうございます」
「いいよ!君は、一年生だよね? 文化祭の準備大変じゃなかった?」
すんなりと話を進める人だなと思った。別に嫌な気がしないのは、話し方以上にこの愛嬌のある見た目が故かもしれない。
「そうですね。中学のころとは比べ物にならないくらい、自分たちでやっている、って感じがします」
「そうでしょ、そうでしょ。これが醍醐味といっていいでしょうね。もちろん明日の後夜祭は参加するでしょ?私たち、バンドすることになっているから、見に来てね!」
先輩は、一枚のチラシを俺に押し付けるように渡すと、教室に向かって行ってしまった。
チラシの裏面には、先輩のサインのようなものがあった。もしかしたらすごい人のサインをもらってしまったのかもしれない、なんて思ったから丁寧に畳んでポケットにしまい込む。
にしても、あんなにきれいにウインクができる人、初めて見たなあ。