手は添えるだけ
門の設営も終わり、汗だくになった状態で、夕方を迎えていた。生徒会と文化祭実行委員は炎天下の中の作業になるので、こうしてポカリスエットが配られている。やはり、夏にはポカリスエット。
「いやあ、さすがに疲れたな。ろくに外に出ていなかったつけがここで回ってきた」
「そうね。多分今なら腕相撲勝てる気がするわ」
「ん?やるか?」
「暑いからやめておく」
「そうだな」
思い出した。俺が藍子に唯一勝てるものを。それは腕相撲。まあ、男子の筋肉量と女子の筋肉量には違いがあるし、体の大きさだって違うから、そこら辺のハンデがあってようやく勝てるというものなのだが。
小学校の腕相撲大会の時、Aグループを勝ち上がってきたのが藍子。そしてBグループを勝ち上がってきたのが俺だった。藍子は力の使い方がうまいらしく、そして成長が早かったこともあって、男子をなぎ倒してきた。俺も両親とよくやっていた甲斐があって勝つことができた。
そして決勝戦。俺と藍子は膠着状態を数分間つづけたのちに、藍子が先に力尽きて……という次第だ。
まあ、こんな暑い中でやろうとは俺も思わない。
体育館前のコンクリの階段。ほかにも文化祭実行委員とかがいる。
それでも、手が、触れる。こんなにも暑いというのに、しっかりと相手の体温は感じられるのが不思議だと思った。
「まあ、握らないなら、熱くはないわね」
藍子はそっぽを向くようにして、手を摺り寄せてくる。
「そうかもな」
俺もそれにこたえるようにして、手を添える。藍子の表情が知りたくて、向いてみたけれど、夕日がまぶしくて、よくわからなかった。
けれど、俺と同じような顔をしていんだろうな、なんて願いのように推し量った。
***
とうとう明日は文化祭。
嬉しいとか、楽しみとか、そんな言葉であふれているけれど、ありふれているけれど。
とにかく謳歌しようと思って、俺は眠りについた。




