ⅠLOVE YOU
「まずは、ごめん」
これは俺の言葉ではない。藍子が発した言葉だ。なんて注意書きをしたくなるくらいに藍子がこうして謝るというのは珍しいことだった。少なくとも俺は、ほとんど見たことがない。
「連絡を取らなかったことも、無視したことも、祭りを回る約束を破ったことも、ごめん」
「いや、別にいい。ありがとう」
「ありがとうって……洸祐はよくわからないね」
「そうかもしれない。最近俺も俺のことがよくわからない。機会があったら教えてくれ、俺のこと」
「本調子って感じだね」
「おかげさまでな」
俺と先輩が話している間も少し雨が降ったらしく、路面がぬれて車のライトに照らされていた。ハイビームが通ると、あたりがキラキラと輝くようだった。
「明日からの宿題考査は大丈夫そう?」
「他人の心配するなんて随分と余裕なんだな。藍子は」
さすがは一位といったところ。宿題が昨日やっと終わった俺なんかとは違うらしい。
「確かにいつもよりは余裕があるかも。宿題考査は、定期考査と違って、成績にほとんど影響しないらしいし。少し気楽に受けられるからね」
「そうなのか。なら、俺も……」
別に今日家に帰って勉強しなくてもいいや、と言おうとしたけれど藍子に「でも」と
「でも、洸祐なんかは、ここで少しでも成績取っておかないと、ついていけなくなるんじゃない?だから勉強はしないと」
こっちを見透かしたようなことを言いやがる。まあ、こういう先見の明が藍子を藍子たらしめているんだろうな。と俺は感心する。
それからも他愛のない会話を続けた。多分俺たちは意図的に。自分から触れるには俺たちは臆病すぎた。いや、結果的に俺だけが臆病だった。
「それで、話のことなんだけど」
軽口をたたきあったせいで、帰路はあと少ししかない。
「文化祭、誰かと回るとか、決まってる?」
「……いや、決まってない」
夏祭りの場面がフラッシュバックする。河川敷の上、レイと藍子が――。あの時投げ出してしまった綿菓子は、この雨で消えてくれているだろうか。いや、その前に捨てられているだろうな。
「文化祭、一緒に回らないかしら。私も、特別相手がいるわけじゃないし」
「…………レイは。レイはどうなんだ」
どう、なんてあいまいな言葉でも藍子はわかったみたいだった。
家の前に着く。最近家の前にある電灯の調子が悪いと妹が言っていたっけ。曖昧な明かりの下で、俺たちは向かい合った。
「レイが告白してきたのは意外だったけれど……お断りさせていただいたわ。」
「どうして」
「それは……」
俺は、緊張とか、高揚とかで、焦っていたように思う。
「私には、運命の人がいるから」
藍子はそのたおやかな指先を俺に向けて言った。