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少女ネイビーとシャングリラ  作者: オカダ倭
92/124

先輩といっても大先輩

傘についた雨露を払って、雑多な傘立てに傘を突き刺した。

すると、下駄箱で藍子と目が合った。

「…ぉ」

みたいな声にならない声で藍子に声をかけようと思ったけれど、藍子は一瞬こちらをもう一度見て、そそくさと行ってしまった。そしてクラスメートの渦の中に飲み込まれていく。俺は一人残されてしまった。

教室につけば、当たり前のことだがクラスメートがそこにいて、皆思い思いの話をしていた。今年の夏休みはどこに行っただとか、誰々と誰々が付き合ったとか、宿題が実はまだ終わっていないとか。そんな色とりどりの思い出を話し合っていた。

藍子はもちろん教室の中心人物なので、その輪の中にいる。夏休み四十日分の話をさばいていく。そんな一分にも満たないような話が四十日分の重みがあるとは俺には到底思えなかった。

相変わらず、この教室は接着剤の香りと段ボールの香りで満たされていた。とうとう文化祭は三日後となっている。夏休みの話題は、文化祭の話題にとってかわられたようだった。

友達のクラスではカフェをやるから、ぜひ来てほしいって言ってた。とか、誰々っていう先輩がコスプレするらしいから写真を撮ってもらいたいとか。そんな会話。

不気味な小道具たちがそれらをあざ笑ってくれればいいのになんてことを思っていたら、担任が教室に入ってきた。

退屈な時間が終わってくれてよかったと思う。


何の意味があるのかわからない儀式的な行事が終わり、教室は甘ったるい空気に包まれていた。

本格的に文化祭の準備を始めなければならない。俺と藍子は文化祭実行委員ということで、前に立ちこれからの流れを説明しなければならなかった。

「この資料を説明すればいいんだよな?」

「……そうね。私がやるから座っていていいわよ」

「そういうわけにはいかないだろ…」

と俺が言おうとしたところで藍子は俺から紙を奪って、教卓の前に立ってしまった。

「待ちに待った文化祭がやってきました! と言いたいところなんですが、明日と明後日は宿題考査になります……」

なんていう風に話を進めていってしまう藍子。声色も何も変わらない。だが、どこかその声は冷たいような気がした。

隣で藍子が話を進めるのを見つめる俺。初めてこうして藍子を袖から見たかもしれないが、藍子の手がこんなにも震えているということに今更ながらに気づく俺だった。


***


放課後。

明日と明後日は夏休みの宿題の定着度を測る宿題考査がある。それが終われば文化祭。対して身にもなっていない夏休みの宿題をテストするというのはこういう進学校ならではの試みなのかもしれない。

文化祭実行委員は、集められて今後の本格的な流れを確認するという会合が開かれていた。レイも、恋先輩もそこに出席していて、もちろん藍子は俺の隣にいた。

話を進めるのは、生徒会長であるところの鶴ヶ島先輩だった。

「……以上が流れになる。何か質問とか疑問点がある人は、生徒会までに。ない人は解散」

簡略的で、この人がこうして生徒会長になったということがよくわかる。校長の話とは違ってとても聞きとりやすかった。


そして藍子と話すこともなく、俺は帰り道をとぼとぼ歩くのだった。

雨が晴れて、湿度が高い。やんわりとした太陽が雲から覗いている。息が苦しいくらいだった。

すると、目の前に女性が現れた。

と思ったのだが、それは女性ではないことを俺は知っていた。異様に髪が長い先輩。

「君の一番の先輩、成都海だよ。迷える子羊に道を示してあげようかな、と思ってね」

先輩は、汗一つかいていない。

大げさなしぐさだった。



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