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少女ネイビーとシャングリラ  作者: オカダ倭
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勉強を免罪符に

それから。俺たちは夏休みをそれぞれで過ごすことになった。一週間、各地の夏祭りを回るなんて藍子の計画は当然のごとく霧散することになった。

残り夏休みも一週間。

俺は以外にも、あいつらと連絡を取らなければ、こんなにも暇なんだということに今更ながらに気づかされていた。とはいっても、寂しいとはまた違うような感情だったが。

恋先輩から聞いた。レイの告白は失敗に終わったと。

そう、失敗ということらしい。告白をすることには成功したが、返事はもらえなかったという。

どうしてだ。と俺は率直に思った。

顔のいい藍子のことだ、あいつは小学校と中学校、男子人気は高かった。俺の周りの男子生徒も何人玉砕して、俺との関係が気まずくなったことだろうか。俺は少し不思議に思ってさえいた。昔から一緒にいるからか、藍子がこうして他人から見ればとても魅力的に映るということが、いまいち理解することができていなかったように思う。

けれど、レイは違っていたじゃないか。

帰宅部だった藍子が初めて作った部活で、プール掃除とか、こうして夏祭りに行ったり、今までにないことをした。そして今までにない表情を藍子はしていたように思う。

俺としては、レイは今までにない人間として、藍子とはお似合いだ、という風に思っていた部分が少なからずある。

だから、俺はやはり「どうしてだ」と思ったのだ。


エアコンの聞いた部屋。傍らにはアコースティックギターがある。これ以上ないくらい暇を持て余していたのだけれど、それでも弾く気にはなれなかった。

「宿題でもするか……」

そういえば昨日から、ほとんど言葉を発していないことに気づいた。声がかすれて出てくる。

机にはまとめられた夏休みの宿題が積まれている。

あと終わっていないのは、数学の宿題。そしてこれは言っていなかったが、実は作文の宿題も残っていたことに気づいた。原稿用紙にクシャと筋が入っている。教科書の隙間に挟まっていたのを昨日の夜見つけた。

いつだって、こうして後から気づくことばかりだ。

だから、こうして後悔ばかりの人生だ。なんて文豪まがいの言葉を吐いてもいいだろう。


***


教科書を開く。章末問題が宿題として出されている。

「こんなこともやったっけな…」

ほとんど覚えていない公式が飛び交っていた。とりあえず問題をノートに写し、解けるところまで解いていく。二行くらい書いたところで手が止まる。これ以上はわかりそうにない。

とりあえず、教科書を見てみるけれど、どの公式を当てはめればいいのかを考える。考えるだけで答えが出るとは限らないのが勉強だ。なんて適当なことを考えながら教科書をそっと閉じた。

とりあえず、次の問題に進む。おそらくこっちも公式に当てはめるはずなのだが、それもやはりわからなかった。

勉強は嫌いだ。

なんの役に立つのかわからない、なんて今となっては普通の謳い文句を言ってみるけれども、実のところ、役に立たないことなんてない。とは思っている。

ただ、できないから嫌いだ、というのが本音ではある。できないとか、わからないとか、藍子に言ったら怒られるのだけれど。

答えの本を開く。

こうして答えが与えられていることも、勉強に対する無力感の一端を担っているといってもいいかもしれない。

ああ、こんなのもあったなってさっきと同じようなことを言いながら赤を入れていく。定型化された、無機質な文章をただただ写していく。なんの身にもなっていないと言うことがよく分かった。


こうして、俺は結局深夜まで数学の宿題に向き合っていた。多分一生分部屋の勉強机にいたと思う。椅子に根が張っていると思えるほどに、集中ができていた。

少しだけ、勉強が好きだと思えた。

夏の夜。というか、もう空は青みがかっていて、時刻は四時を示していた。

ほかのことは何も考えなくていいし、それでいて周りの人間からは「いいこと」をしていると思われるからだ。だから、少しだけ、勉強が好きだと思えた。


……なんてことを原稿用紙に書き連ねて、俺は眠りについた。


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