高校生なんて恋愛と勉強と部活くらいしかやることない
「先輩も聞かされていたんですか? レイと藍子のこと」
「そうじゃ。レイから聞いとった。今日の祭りが始まる時ではなく、一週間前くらいに。『藍子さんと一緒にどこかに行くことになったら』とな」
「そうですか」
俺には当日連絡ということか。優先順位がレイらしい。
「ところで、がっつりしたものが食べたいって言っていたと聞いたんですけど、綿菓子でいいんですか?」
「おぬしは腹が減っていないのか? あんなちゃちな食いもんじゃ腹は膨れないじゃろう。綿菓子は適当に言っただけじゃ。何か食いたいもんはあるか?」
恋先輩は見かけによらずに大食らいらしい。やせの大食いとかそういうことだろうか。ちびの大食いなんて言ったら先輩はきっと怒るだろうな。
「そういえば、観客席にあった食べ物は、どうしたんですか?」
買っていたというなら、さすがにあの量だ。きちんと金は払わなければならない。たとえ先輩だとしてもだ。というかお互い高校生だし、経済力に差はそんなにないと思いたいのだが……。
「ああ、そうか、おぬしには言ってなかったな。わしの家も、この祭りに協賛しているというか元締めみたいなもんじゃからな、大体のものはタダか割引で買えるんじゃ。いいじゃろう? 支配者階級の特権というやつじゃな」
「うわあ。それはすごい」
夢にまで見た、祭りフリーパスというやつだ。これ、藍子に話したら、きっと悔しがるんだろうな。元結胡乱なもの食べたかったのに!って感じで。
ところで、と恋先輩。
「おぬしはいいのか?」
何が、とは言わなかった。恋先輩はその核心に触れなかったけれど、俺は、というかほとんどの人間ならばわかったに違いない。
もしかしたら恋先輩は言ってくれなかったのかもしれない。そう考えると、恋先輩は嫌な人だ。
「いいんですよ。俺にあいつの隣は似合わない。」
率直な答えだった。正直漠然とした状態で抱えていた思いを、藍子との話で浮き彫りにされた気分だった。
夢を持つ藍子、そして無気力な俺。
どう考えたとしても両者が相容れることなんてないだろう。
「そうか。それは残念じゃな」
恋先輩はとてもやさしい。でもたぶんこれは優しくない。
あくまで俺に決定権をゆだねようとしてくるからだ。
綿菓子の屋台の前に着いた。
「いらっしゃい!って親方の娘さんじゃないですか。いくついります?」
「二本でいい。もうここらの屋台はたたむのか?」
「そうっすね、もう花火も終わったんで。まあ俺たちはこの後片づけが終わってからが本番ですけどね」
「そうか。楽しんでくれ。ありがとな」
「いえいえ。恋さんも、楽しんでくださいね」
と、気前のいいお兄さんは俺のほうを見て、ウインクをしてくる。
なまじガタイがいいものだから、「お嬢に何かあったら」なんて言われると思ったのだが、そんな気性の粗さを感じさせない好青年という感じだった。墨は入っていたけれど。恋先輩は
「そんなんじゃないわい」
なんて言って綿菓子を嬉しそうに抱えていた。