花火大会は花火が終わってからも楽しい
俺たちはしばらく花火をじっと見ていた。
ここに会話なんて必要なくて、ただ屋台の飯をほおばって、「きれいだなあ」なんて思いをはせるだけで充分だった。
もう花火もラストスパートという頃。レイが口を開いた。俺にしか聞こえないような声で。
「僕、今日、藍子さんに告白することにしました」
俺は思わず飲んでいたタピオカミルクティーを吹き出しそうになった。ブームは去ったといってもおいしいものはおいしい。
「まあ、こんなこと、本当は洸祐さんにいう必要ないんですけれどね。一応、言っておくことにしました。なので、この花火が終わったら恋先輩とどこかに行ってほしいんですけれど。いいですか? 確か恋先輩は『がっつりとしたものが食べたい』って言ってました」
頼みましたよ。そう俺の返答も聞かずに、レイは花火に向き直った。
色とりどりの花火が満開になる。その余韻を楽しめと言わんばかりに、花火が一斉に消えていく。少し靄のかかった夜空に視界がおおわれる。
最後の花火。
一発。
ひゅうと音を立てて、最高到達点に向かう花火玉。
このまま時を止めてしまえば、花火は花を開くことなく、そしてこの祭りも終わることはないのに。なんて思うのだが、そうは問屋が卸してくれないらしい。
満開の華が開く。俺たちの顔は一瞬だけ色とりどりに染められ、そしてすぐに夜が塗りつぶしてしまう。
パラパラと花びらが消えていくその時間。俺はどうしようもない焦燥感に駆られていた。
本当に、どうしようもない。
「ここらで解散としましょうか」
花火が終わると皆薄情なもので、そそくさと帰り支度を始めてしまう。中には花火が終わると同時に屋台をたたむところもあるくらいだった。
きっとこのまま駅に向かっても、どうしようもないだろう。そう思っていた時に、恋先輩は
「あーあーそういえば綿菓子買ってなかったのう。洸祐、ちょっと一緒に買いに行かんか? 牛串ばかり食べて口が甘いものを欲している頃合いじゃろう? そうじゃろう?」
ちょっと恋先輩、それはあまりに大根役者過ぎやしませんかね。
まあ、この場合はレイがどっちにも働きかけていたということをほめることにして、俺と恋先輩は閑散としつつある屋台の道へと足を運んだ。
その時、レイと藍子、距離がある二人を尻目に、帰り支度をしている雑踏の中に飲まれていった。




