先輩は一生先輩って呼ばれる運命
「あーいたいた、洸祐さん!藍子さん!」
レイがこちらに駆け寄ってくる。
「探しましたよ。どこで何してたんですか。連絡もこの混雑じゃ取れそうにないし…」
「ああ、通知今来たわ。すまん。恋先輩は?」
一緒に行動していたはずだが。そういえばレイが持っていた巾着もない。
「場所をとっていたんですよ。花火が上がると聞いていたので。さあさあ、こっちですよ」
藍子にも手招きをするレイ。こいつはこいつで気を使えるやつだからな。藍子が少し萎れているのを一瞬で読み取ったらしい。
「何かしたんですか?洸祐さん」
「まあ、な。これ以上は聞かないでくれ。なんだか不公平な気がする」
「わかりました。でも、恋先輩にそんな素振り見せちゃだめですよ? 絶対あの先輩つついてきますから」
「そうだな。肝に銘じておくよ」
俺とレイが先行する。藍子がついてきているか、俺は確認しながら歩いていた。でも、この状況ですら俺は藍子に対して不親切な気がしていた。
少し歩くと、そこはここらで一番大きい川で、堤防には様々な色のシートが並べられていた。入っていい場所もあるのだが、中には入ってはいけない場所に場所取りをしているシートもある。でも、レイ曰くこっちじゃないらしい。
連れてこられたのは、市役所の前にある、関係者席という場所だった。
「僕の叔父がここに協賛しているらしく、自由に使っていいそうです。もう叔父たちは『暑すぎる』って言って帰ってしまいましたから」
まあきっとこれから二次会で居酒屋に行くんでしょうけれど。とほとほとあきれた様子だった。確かに、そういうおじさんたちって花より団子のイメージあるな。
「よう、藍子、洸祐。遅かったな。こっちにたんまりと戦利品があるから食べていいぞ。全部わしのおごりじゃ!」
焼きそばに、お好み焼き、牛串に冷しキュウリ、そしてりんご飴。屋台全部回ってきたんじゃないかというほどの食べ物が並べられていた。
「ほら、藍子、りんご飴じゃ。悲しいことに『伝説』は見つからなかったが、これ結構おいしい部類じゃと思う。食べてみーよ」
幸い藍子は恋先輩の前では楽しそうにしていた。俺はそれを見てほっとしていた。りんご飴をほおばる藍子は、いつも通り。ただ、俺の心だけが、周回遅れなだけだった。