ハイヒールで踏まれるのは結構本気で痛い
とにかく、二手に分かれることにした。
こういう時、藍子のことを好きだと明言しているレイが率先して藍子とペアになるのがラブコメの常だと思うのだが、レイは藍子の決めた通り、恋先輩とペアを組むことになっていた。
ということはもちろん俺と藍子がペアというわけで、幼馴染コンビ結成ということだった。藍子と祭りに何度か行くことはあったが、こうして夏祭りの正装をして、というのは初めてのことかもしれなかった。いつもフラットやってきてはりんご飴を何個か食べて帰るだけだったから。
「とりあえず、りんご飴屋に行くか。ほかに何か食べたいものとかあるか?」
「そうね。とりあえずはりんご飴よ。話はそれから。」
歩きにくいつっかけだというのに、藍子はすたすたと歩いて行ってしまう。左側通行になっている二メートルくらいの道幅。もちろん満足に体を動かすことができるわけもなく、俺は何度も藍子を見失いそうになる。キラキラと光る簪を頼りに、俺は雑踏の中、羽虫のようにゆらゆらと藍子を追いかけていた。あの夏の冒険とは真逆になっていることに今更ながらに気づいた。
「おじさん。りんご飴一つ!」
この一番大きいやつ!と藍子は意気揚々に注文をしていた。ズラリと並ぶ列に俺は並ぶ気になれず、りんご飴屋の隣で藍子の番が来るのを待っていた。隣には冷やしパイン。そしてその隣には焼きそばの香ばしい香りが漂っている。とりあえず、俺はあまり並んでいない冷やしパインに甘んじている。
「ほい。ってかもう食ってんのね……」
藍子は俺に気を使ったらしく、りんご飴を二つ買っていた。一つは俺のこぶし位あるもの。そしてもう一つは結構小ぶりなサイズなものだった。
藍子は周りの雑踏と、喧騒を見ながら、
「とりあえず、静かなところに行きましょ」
と言って俺を暗がりへと連れ込んであんなことやこんなことを……。なんて男子高校生特有の妄想を繰り広げていると、つっかけの一番鋭利な部分でつま先をえぐられた。見透かされている…?
素足!馬鹿野郎!