本当に綺麗な人はもっと自分に自信持ってほしい
俺とレイは、身ぐるみをはがされ、そして浴衣を着せてもらった。俺が中学生のころに買ったような安い浴衣なんかとは比べ物にならないくらいに肌触りがいいのが印象的だった。
「歩くんだからきつめにしないとね」
と結構きつめに帯を締めてもらったおかげで、結構動いてもズレる心配はなさそうだった。中学校の頃浴衣で祭りに行ったときは、ベルトを巻いていった気がする。落ちてくるから。
俺は藍色の浴衣。藍染で絞ったような生地だった。そしてレイは黒地に百合の花があしらわれた、どちらかと言えば女性もののようなデザインだった。
「洸祐君は無難な格好が好きみたいだから、オーソドックスなものを。で、レイ君はイケメンだから、ちょっと女の子っぽいのもいけそうだと思ったけれど……中々に似合うわね…」
奥さん、目、目。ちょっと危ない顔してましたよ、ほんとに。
まあ、数々の浴衣を見てきただろうし、着付けもしてきただろう恋先輩のお母さんとは審美眼が違うだろうが、素人目から見てもレイはとても浴衣が似合っていた。元々中世的で美形だから、髪を伸ばせば女の子と言ってもいいくらいかもしれない。
「ほんとに、レイ君、うちの息子にならない? 着付けも教えるし、何ならイメージモデルだけでも…」
「ははっ。ありがとうございます、着せていただいて。僕でよければ、、全然かまいませんよ。モデルの方」
「ほんとに!? じゃあ連絡先を…」
とレイと奥さんが異様に仲良くなっているのを尻目に、俺は待合室のソファに腰掛ける。すると目の前のドアが開けられた。
まず目を引くのはその色。まるで白無垢かのような生地に、朝顔があしらわれた浴衣だった。帯には赤色がちりばめられていて、黒が基調とされている。髪は少し手が込んだもので、丁寧にまかれて、かんざしが揺れている。
もっとしおらしいような顔をしていれば、絵になりそうなものなのに、藍子はとてもうれしそうに顔をほころばさせていた。
「どうかしら、かわいいわよね?」
多分、ドアを開けたすぐ前に俺がいたからだろう。藍子は俺に対して感想を求めてくる。
ほとんど誘導尋問みたいな質問だったが、俺は素直な感想を口にする。
「本当に、良く似合ってるよ。お嫁さんみたいだ」
まっさらな浴衣なものだから、そんな言葉がつい出てしまった。恋江先輩のお母さんは「まあ」なんて口を押えていたし、レイは微妙な顔をしていた。そして俺以上に赤面していたのは恋先輩だった。
「まあ、当然ね。私かわいいから」
藍子はいつも通り胸を張って自信満々という風だ。こいつにはどんなラブコメ展開も通じないのだろうか。俺と恋先輩にはクリーンヒットだというのに。
くそう。