宿題をやらずに遊ぶ時の背徳感が夏休み
「一週間全部?」
ということはつまり七回花火大会に行くということだろうか。でも藍子は、そうじゃないといった。
「別に一日二つ行ったっていいわけだから、七回とは限らないわ。もしかしたら十四回かもしれない」
こいつは一体何を言ってるんだ?
レイも俺と同じように、藍子の意図が見えないらしく、くぐもった顔をしていた。そうなるわな。
「じゃあ、まず初めは、明日の夜にある、お祭りね。調べたところによると、隣町でやっているらしいわ。神社が協賛で……」
とタブレットに向こう一週間の予定が並べられていた。一日目はどこ、二日目はどこ。という風に予定がびっちりと並んでいる。
こいつ。もしかして、あんなに申し訳ない風で言った癖に、初めから仕組んでいたということか……!
そして隣のレイの顔覗くように見れば、それは確信犯の笑みだった。もしかして、こいつらあらかじめ……!
「いやあ、楽しみね、花火大会。宿題も終わっていることだし、めい一杯楽しめそうね。気兼ねなく、全力で!」
「そうですね。宿題なんて、気にしなくていいんですもんね。最高じゃないですか。楽しみましょう」
俺が一人置いて行かれたようになっているのは解せん。ここは俺の部屋だし。
もしかしてこいつらは俺が数学の宿題に手を付けていないことを知っていて、こんな嫌がらせを…?
この状況。どう考えても宿題が終わっていない俺がマイノリティーだし、悪とさえ呼べる状況だ。今さら「俺実は数学の宿題が……」なんて言おうものなら、藍子に殴られるだろうし。レイにはチクチクと嫌味を言われるんだろうな…。なので俺は反論なんてできるはずもなかった。
「あ、ああ、楽しみだな。にしてもこんなに都合よく祭りがあるなんて、すごいな」
「結構遠出すれば、ある所にはあるものよ。で、祭りに行くって言ったら、何をしたい?」
もうすっかりと祭りに行く気分になっている二人。なんかこうして見ると、旅行の計画を立てているカップルみたいだなと思う。
レイは、藍子のことが好きだという。
それはこの『総理大臣部』が作られた初めにレイが言ったことだ。
今はどうなのかわからない。そして今も彼が彼女のことが好きだというなら、それは素直にすごいと思う。藍子のことを好きになれるなんて、という意味ではない。
ただ、その好きを見せないということがすごいと思う。
レイは気障な男だ。気に障ると書くが、それでいて嫌な感じはしない。彼の個性として認められている。よく色恋ではあるような、下心のようなものが見えてこない。
人はこういうのを純愛というらしいが。俺にはよくわからない。
まあ、こんなことどうでもいいか。
とにかく、俺は今日の夜、死ぬ気で数学の宿題を終わらせなければならないということが確定されたのだから。
サインコサインタンジェント。
微分積分いい気分。