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少女ネイビーとシャングリラ  作者: オカダ倭
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どこの祭りでも懐かしいような気がするのは何故

恙なく、全四回あった文化祭準備が終わり、そして文化祭の準備が終わったということは、夏休みの終わりも意味していた。暦はとっくに八月を過ぎていて、ナスの馬に乗ったご先祖様も帰ってしまっている。煙を頼りに。

本当にあっという間の夏休み。始まる前はあんなことやこんなことをしようと意気込んでいたというのに、実際始まってみると一瞬で時が過ぎ去ってしまう。

無くしてしまった夏休みを取り返さなければ。残り一週間となった夏休みの間に。もちろん宿題は終わっていない。簡単な答えを写すだけのものは終わったのだが、如何せん、性質の悪い先生はそれを答えを写す生徒がいるということを考慮して答えの冊子を回収してしまうのだ。だから、答えを回収された数学だけは終わっていない。

宿題をやらなければならない。そんなことはわかっているけれど、中々やる気が出ない。なんてグルグルと堂々巡りの思考を自室のベッドでしていると、枕元の携帯が振動した。

つい最近発足した『総理大臣部』というグループだった。メンバーはもちろん俺とレイ、そして藍子の三人なのだが、何を血迷ったか、藍子は恋先輩を招待していた。依然として入る気はないらしく、ずっと招待中となっているが。

「えーと、なになに」

部員各位へ

宿題はとっくに終わってるわよね。残り一週間となった夏休み。遊ぶわよ!

とりあえず、今日2時から作戦会議を始めるわ。場所は洸祐の家!

――俺は何も関与していないというのに。

場所は俺の部屋ということだった。作戦会議?もしかして藍子の奴この一週間ずっと遊ぶつもりじゃないだろうな……。まだ宿題終わっていないんだが……。

とりあえず、やっと始まった感がある俺の夏休みは、この部屋を掃除することから始まることになるのだった。


「こんにちは、洸祐さん。お邪魔します」

レイの家を俺はよく知らないのだが、電車通学ということだから、きっとそこそこ遠いのだろう。だというのに学校近くまで来させられて迷惑じゃないのだろうか。俺だったら絶対嫌だけどな。リモート参加を希望する。

「いいのよレイ。ここは部室みたいなもんなんだから。そんなかしこまらなくても」

勝手知ったる他人の家という風に藍子は冷蔵庫から麦茶を引っ張り出してきていた。やっぱり夏は麦茶に限るわよね~じゃねえんだよ。それほとんど強奪だからな?

「ちなみに、ラインでも言ったけれど、本当に宿題は終わってる?」

「はい。僕は七月中に終わりました。小学校からの自分ルールなんです」

「流石ね。洸祐は?」

「え、ああ、終わってるよもちろん(答えがあるものは)」

何が「もちろん」なのか。ぜひともお聞かせ願いたいくらいだったけれど、嘘はついていない。答えがある夏休みの宿題は終わっているからな。

「そう。ならよかったわ。まずは、この一週間、何をしたいか考えましょう」

藍子は少ししどろもどろになった俺を訝しい目で見ながら、ノートに「夏休みらやりたいことリスト」と書き始めた。

夏休みやりたいこと、意外と思いつかないな。

「僕は、花火大会に行ってみたいです。確か今月末にありましたよね?」

「ああ、この市の花火大会な。てか、行ったことないのか?」

そこそこ有名な花火大会だから、レイがたとえこの市ではないとしても、行ったことぐらいあると思っていた。

「じゃあ行きましょう。洸祐は?」

「俺は……別にないな。できることならこの部屋でぐったりとしていたいくらい……」

「まあ、洸祐はそう言うと思ったわ」

流石幼馴染。よくわかっている。

どうして天気予報で毎回「危険」と呼ばれている暑さの中に自分で飛び込んでいかなきゃならないんだ。人間としておかしいじゃないか。くらいまで思っていることもお見通しなのかもしれない。

「そういう藍子さんはしたいことはないんですか?」

それもそうだ。藍子が持ち掛けた話題だから、てっきり、部室のホワイトボードに「クーラー!!」と書いたみたいにやりたいことがあるもんだと思っていた。そして真っ先に言うもんだと。

「まあ、あるにはあるんだけど、ちょっと面倒っていうか……」

珍しく藍子が遠慮してみせたから、俺もレイも首をかしげる。

いつもなら「うるさい! いくわよ!」って感じなのに。今日はなんだか、しゅんとしている気さえする。

「全然いいですよ、僕はどこでも。藍子さんと洸祐さんと一緒に居れるならどこでも楽しいと思いますし」

こいつはこいつで、暑さで頭がやられているのか。いやこれが平常運転なのか。相変わらずきざったらしいぜ。

「じゃあ…私は、というか、私も……花火大会に行きたい。一週間、毎日」





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