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少女ネイビーとシャングリラ  作者: オカダ倭
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頭のいいやつってのは馬鹿と同じ目線ができる

「まあ、恋ちゃんにはバれると思ってたけれど、洸祐にもばれちゃったか……」

藍子は「やっちゃった」と頭を押さえている。

別に俺の中に沸き起こっていたのは怒りではなかった。ただ、動機がわからない。その疑問符が俺の頭の中を飛び交っていた。

レイの方を見ても、完全に納得している恋先輩のような表情はしていなかった。

「状況的に藍子さんではないかと直感しましたが、動機までは…」

そうだ。やはり動機がわからない。

「ありがとうな、藍子。おかげで文化祭に間に合いそうじゃ。恩に着る」

「いや、まあ、恋ちゃんのためというか、私たちのためというか……」

状況が上手く呑み込めていない俺とレイ。「らんこ」と書かれた小さな紙切れを何度見ても答えは出てこない。

「まあ、歩きながら話すとするかのう。そろそろ帰らないと見回りの先生にどやされてしまいそうじゃからな」


朝とは打って変わって、暑さは大分引き、日影は少し肌寒いくらいまで気温は下がっていた。

結局見回りの先生に「早く帰れよ~」とどやされてしまった。ところでこの「どやされる」の「どや」って何なんだろうな。

藍子は相変わらずポータブル扇風機を顔に浴びて、汗一つ書いていない。凛としている。

「まず、思い出してほしいのが、この文化祭の出し物の形態についてじゃな」

恋ちゃんが人差し指を突き立てて説明を始めた。

「洸祐。この学校の出し物は、何年生に優先権がある?」

「三年生だよな? 最高学年だから」

「そうじゃ。三年生から順に総数があらかじめ決められた催しをやることになっておる。例えば、レイがやる『喫茶店系』は学校で5つまでと決められているんじゃ。だからもし三年生が『喫茶店系』を五クラスやろうとしたら、一二年生はできないということじゃな」

ふむふむ。それは知っていた。俺は文化祭実行委員の集まりでこの話を聞かされていたからだ。レイは「なるほど」とうなずいている。

「では、ここで疑問に思わんかの? おぬしのクラスのも催し物について」

「俺のクラスは『お化け屋敷』……」

「洸祐さん。キーワードは人気、ですよ」

レイは俺よりも早く分かったようで、恋先輩側の涼しい顔をしてやがる。

「ああ、『お化け屋敷』は人気だから、三年生がとってしまう。ってことか?なのに、一年生で一番優先権が薄い俺のクラスが『お化け屋敷』をやっているのはおかしい、と?」

「そういうことじゃ」

確かに、それはおかしいかもしれない。だが、俺はその出し物を決める会議に出席していたからわかる。初めから『お化け屋敷』を希望していたクラスは、定員の5クラスだったはずだ。だから、一年生である俺のクラスがじゃんけんなどの決戦をせずにすんなりと決まったのだ。たまたまという線はぬぐい切れないのではないか?

「確かにそうじゃ。たまたまという線もあり得る。だけどな、わしは各クラスの文化祭実行委員の情報を先に集めておいて、事前予想のようなものを作っていたんじゃよ。もしブッキングしたときに、委員会で喧嘩にならないようにあらかじめな。でも、その時、『お化け屋敷』を希望していたのは……」

「六組以上だった。この場合六組だったんじゃないですか?」

レイが確かめるように言う。

「そうじゃ。さすがじゃのうレイは」

俺達の話を聞いているのかいないのか。藍子は携帯をいじっている。俺の携帯も振動しているから、きっとグループに次回日程とかを送っていたのだろう。

「ということは、あの催し物を決める委員会の時には、どこかのクラスが第一希望を変えていた。ということか?」

「そういうことになる。そしてそれは三年生のクラスじゃった。あの鶴ヶ島川越のクラスじゃよ。あいつのクラスは特進クラスでな。この学校の進学実績の根幹を担っていると言ってもいいくらいの秀才の集まりじゃ」

「ほら。もう見えてきますよ。洸祐さん」

なんだか、レイと恋先輩に、あしらわれているみたいだ、俺。

手取り足取り、謎解きをさせられている。

「進学実績を担うようなクラスじゃ。当然、この夏休みは登竜門と言える。何が何でも勉強時間を確保しなきゃならんからのう。でも、文化祭も楽しみたい。準備にも力を入れたい。そんなときに、上手い話を持ち掛けたのが、藍子じゃった、ということじゃろう。そうじゃな?藍子」

藍子は、バツが悪そうに、「うん」と答えた。

勉強時間の確保、人気の『お化け屋敷』、そしてなくなった壁の枠組み。

段々と見えてきた気がする。

「きっと藍子はこういう取引を持ち掛けたんじゃ。『あなたたちの催し物の業務委託を受けてあげる。だからその代わりに『お化け屋敷』の権利を譲ってほしい。勉強時間の確保が必須なアナタたちのことを考えれば、悪い話じゃないとは思うけど?』とな」

恋先輩の藍子の物まねはお世辞にもうまいとは言えなかった。藍子は口をとがらせて「そんな言い方してない。もうちょっと丁寧に言った」と抗議の声を入れていた。

だとしたら、そういうことか。

「だから、その業務委託という形に使われたのが、あの壁の枠組みだったってことか。だから、犯人は藍子」

「そうね。私は悪いことをしたとは思っていないけれど」

藍子はツーンとして、そっぽを向いてしまった。こうなると藍子って世界で一番面倒なんだよな。レイとかは知らないと思うけれど。

ひとまず、今回の『壁泥棒事件』はこれで決着のようだった。

なんだか、校内を走り回った汗だくの午後が、報われたような、報われないような。そんな気持ちだった。


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