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少女ネイビーとシャングリラ  作者: オカダ倭
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メロンソーダとミックスジュース

「え、何、ほんとに、なに?」

――小柄な女の子もとい杠葉先輩は本気で目の前にじたばたと寝転がっている藍子を見て、心配していた。是だから頭のおかしい女なんて呼ばれる羽目になるんだ。入学も早々だって言うのに。

「おい藍子、そのくらいにしとけよ。先輩なんだから、もう部活動に入ってるだろ。誘うのは無しだな。じゃあ先輩帰ってもらって大丈夫ですよ。後は俺が何とかしとくんで。」

こんな状況に俺が慣れていないとでも?

俺はこの頭のおかしな女の幼馴染だぞ?

こんなのは日常茶飯事だってもんだぜ……。

涙がほろり、今までの苦労をねぎらうように出た気がした。

「うむ。では私はこれで。今日も今日とて予算の算出などで忙しいのだ。ではまた何か機会があれば。」

杠葉先輩はその小さな歩幅でずんずんと歩いて部室を後にする。

――あとはこいつをどうするか、だな。

俺はなんだかこの学校に来てから気苦労が絶えない生活を送っているような気がしているのだった。心が休まる暇がない。まあ心なんて器官は人間にはないので、気のせいということもできそうなものだが。


後から話を聞いた限りでは、あの小柄な女の子という形容が正しいように思われる生徒会会計、杠葉恋先輩は、三年生の間ではとても有名な人物なのだそうだ。

何でも、と言ってしまうのは失礼にあたるような気がするが、彼女は学年トップの成績なのだそうだ。

生徒会にも所属しており、学年トップというのはなんともすごい。というか優等生として出来すぎているという印象さえ受ける。

いや、もしかすると、学年トップだから生徒会に所属できているという節はあるのかもしれない。はたまたその逆であるのかも……それは生徒会に夢を見すぎか。

でも、それが故に有名ということではなさそうだった。

もちろん誰にでもできることではないので、噂の一端はそういった優等生然としたところが担っているのは確かだろう。

だが、それが本質ではない。

それが彼女の全容ではない。

――まあ、目の前でむくれている彼女にそんなことを言ったところで何のあてにもされないのは目に見えているのだが。

「何よ。話って。まさか私を説教なんてしようってんじゃないでしょうね。私のあれは、戦略的なモノなの。あんなにかわいい人間は私見たこと無いわ。だから、ああやって幼児退行すれば、興味を惹けると思ったのよ」

目の前にいる頭のおかしい女、もとい、紫吹藍子部長は、腕組をしながら、そして足までも組んで俺のことをジトッとした目で見つめていた。

ここは近所のファミレス。ちょうど夕飯時で、お互いに両親が家にいないのでちょうどいいということで来ることになった。

来ることになったなんて言うと、めったにないことだと思いそうだが、結構な頻度でこういうことがある。都合がいいから、一緒に帰りがけに寄る。それだけのことだ。

「いいや。あれは本気だった。本気と書いてマジと読むくらいにはな。お前ちょっと泣いてただろ」

「な、泣くわけないでしょ!!!!」

机をばたんと叩きながら反論する藍子。

ガチャと食器が音を鳴らす。

俺は周りのお客さんに軽く会釈をし、謝罪の意を示す……本当は藍子がするべきことなのだろうけれど。


「で、本当の意図は何だったんだ?杠葉先輩を部活動に強制加入させようとした理由。」

もう食べるものは食べ終わり、テーブルにはドリンクバーのコップだけがある。俺はいつもオレンジかミックスジュース系を好んで飲む。彼女は基本的に炭酸飲料だ。特にメロンソーダ。

彼女は俺の質問に渋々答える。

「――かわいいと思ったのは本当。生徒会だってことが校章の隣のバッチで分かったから、リボンの色なんて見ずに……」

「連れてきちゃったってわけか」

「…………」

いつも時間さえあればずっと話している藍子だから、沈黙は肯定の合図として機能している。

いつになくしゅんとしおらしい状態の彼女。だから俺は、

「まあ、そういう時も―――」

あるよな。

と彼女の肩をたたいてやればよかったのだけれど。

俺は俺で変なところで真面目なところがある。だから俺は、

「ないな」

なんて言って、しおらしい藍子をさらにしおれさすようなことを言ってしまうのだった。


帰り道。

夕日が落ちてしまえば、まだまだ夜はひんやりとしていて、一枚羽織りたい気分になるものだ。

まくっていたシャツを戻そうかどうか迷っているうちに、夕日は落ち切ってしまったようだ。

「これからの活動はどうするんだ?」

半ば強制的に教師に判を押させ、発足させた『総理大臣部』。先日の杠葉先輩ではないが、今後あるであろう生徒会選挙や生徒総会、そして日常の生徒会業務に名前が挙がることは避けられないだろう。杠葉先輩も「予算が」という趣旨のことを言っていたし。

もし、生徒会の目に留まれば、活動内容未定、部員数はぎりぎりの三人。実績なんてあるはずもなく。(というか、この総理大臣部で実績があがったら、この国は終わりだろう。学生が総理大臣なんて。)

そんな部活動は真っ先に消えてしかるべきだろう。

藍子は、少し苦い顔をしたのちに、思いついたように、

「生徒会」

と短く言った。

「生徒会に入るわ、私。そうすれば直近の「部の存続」っていう課題は解決できそうな気がする…!」

さっきまでの元気の無さはどこへやら。目には輝きが再起していた。

「生徒会選挙は……確か九月とかじゃなかったか?そこで代替わりの選挙があるはずだ。そこに向けてって感じか?」

「そうね。生徒会に入る。ふふ。総理大臣への第一歩ってやつね。この小さな学校で一番に成れなきゃ総理大臣になんてなれっこないわね」

後半については、俺は聞き流しているようなものだった。勝手に脳内でインプットがシャットアウトされるように俺の脳は最適化されているのだ。

「洸祐。これは部長命令よ。私とレイ君を、生徒会に入れるようにプロデュースしなさい!!!!」

彼女は俺のことを指さして、快活に笑う。

こいつ。こうしてればただのかわいい幼馴染なんだけどなあ。

残念美人とはこいつのためにある言葉なんじゃないかと常々思うぜ、まったく。

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