手品を楽しめなくなった時が大人になった時
「痛いっすよ先輩なにもそんなに殴らなくてもいいじゃないですか~」
なんて言っても先輩は完全に俺のことを嫌ったようで、「ケダモノ…ケダモノ…」とブツブツ呟いている。
「まあ、あれは洸祐さんが悪いというか…。すみません。フォローできません」
レイもあっち側ということらしかった。くそ、誰か俺の味方になってくれる奴はいないのか。
恋先輩にも相談してみると、渋々ながらに手伝ってくれるということだった。ついでに監査委員の仕事もするという条件付きだったが。
「例えば、廊下側の壁にはガムテープを張ってはいけない。とか、塗料が床についていないかとか、予算は十分かみたいなことを、逐一チェックする仕事じゃな。おぬしらの教室は大丈夫か?」
「大丈夫であります」
「僕のクラスは装飾をあまりしないので」
若干俺のキャラがぶれ始めている気がするが、其処は置いておこう。今は先輩に従順な子犬系後輩を演じていないと、あのインステップキックが再度俺の頭に炸裂してしまう。可愛いパンツも。
「それで、その壁とやらを盗んだ奴を見つければいいんじゃな?」
「そうです。でも、先輩、すぐにわかったみたいな表情してましたけれど、本当にわかるんですか?…………………………小さいのに」
ぼそっと言ってみたつもりだったのに、先輩の拳は俺の右頬を掠めていった。何がとは言っていないのに!
「この変態が…。まあ、いいじゃろう。わしは楽しみは後にとって置くタイプじゃ。学食のからあげ丼の最期の一口は唐揚げを頬張るくらいにな。だから洸祐。もしわしが犯人を見つけることができたら、ワシと柔道場で組み手をしてくれるか?」
変態?俺は別に身長のことを言ったのだが。なんて言ったらすぐに第二の拳が飛んできそうだったのでやめておいた。さすがの俺にもそれくらいの自制心はあった。
先輩は犯人に心当たりがあるということらしかった。それも相当な自信があるようで。
「先輩は何を手掛かりに、犯人にたどり着いたんですか? 僕は気になります」
結構レイも真剣に考えていたらしく、先に答えに辿り着かれ悔しそうにしていた。こいつもこいつで結構な負けず嫌いだからな。藍子と同じくらい。
「そんなのは簡単じゃよ、レイ君――なんて言いたいんじゃが、これはおぬしら一年生じゃわからないじゃろうから、ほとんどずるみたいなもんじゃ。しかも、ワシのクラスが『お化け屋敷』ということも証拠になりえるんじゃよ。」
先輩はわざとらしく、指を振って見せる。クソ、小さいのに。
犯人は、下校時刻のチャイムが鳴った後に看破する。と言うので、俺とレイは監査委員の仕事を手伝う羽目になった。
もしかしたら、先輩はそうやって時間稼ぎをして、犯人を考える時間を確保しているずるい人なんじゃないかと思ったけれど、さすがにそれは先輩も思ったようで、
「じゃあ、この紙に犯人を書いておくから、中身を見ずにポケットに入れといてくれ。そうすればわしがこの時点で犯人がわかっているという証明になろう?」
と、俺とレイの後ろポケットにはかわいく折りたたまれた紙が入れられた。確かにこれならば不正はできなそうだ。
そして、チャイムが鳴る。