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少女ネイビーとシャングリラ  作者: オカダ倭
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探偵は、学校にいる

「やべえ。これ大幅に遅れてるんじゃねえか?」

藍子が作った文化祭の準備計画表を見て、俺は驚愕した。

今日は三回目の準備である。だから、お化け屋敷の看板の完成。そして教室内を迷路のようにするために段ボールと木材を組み合わせた壁の作成。その二点が終わっている予定だった。装飾や、小道具などは学校が始まってからでも間に合うということで後回しだ。

だというのに、看板の「か」の字もない有様で、壁に関しては段ボールすらない状態だった。

一回目と、二回目。そこでは確かにあったはずだというのに。

「お、来た、降谷~こっちこっち!」

クラスの一軍。今回初登場の河合がこのくそ暑い中でも元気に声を出していた。彼は壁を作る係りだ。親が大工ということもあって、木材を扱う部門に行ってもらった。

「これ、一体どうしたんだ? 壁の枠くらいはできていたじゃないか」

後は段ボールを張り付け、倒れないように壁に足をつけて完成。という次第だったのに。それがもぬけの殻になっている。あれほど幅を取っていたものが無くなって、教室がいくらか広く感じる。

「それが今日学校に来たらこの有様だったんだよ。枠もないし、インパクトドライバーも無くなってやがる。これってよ……」

「ああ。誰かが、この教室に忍び込んで盗っていったんだろうな」

「そうなるよな……」

教室内は騒然としていた。じゃあどうすんの?あと一回しか集まれないのにどうすれば…とか、挙句の果てに、装飾班の女子と、壁班の男子とが喧嘩を始めるに至っていた。

クラスの一軍女子、倉敷は男子に向かって、

「あんたたちがきちんと管理しないのがいけないんじゃないの? 女子は絶対手伝わないからね!」

取り巻きの女子達は、「そーだそーだ」なんて定型句のような野次を飛ばしていた。今時そんな棒読みが通じるとでも思っているのだろうか、というくらいに棒読みだった。

実際は、倉敷に反対するということは、この教室での立場を追われるということだからかもしれない。

「誰かに盗まれたんだぞ? 俺達が悪いわけないだろ! しかもこの教室には鍵がないし、毎日来るわけじゃないんだから、管理なんてできっこないだろ!」

俺が男子だからなのかもしれなかったが、男子の言い分はもっともらしく聞こえた。こんな鍵もかけられない教室で、何かを盗まれないようにするなんてことは、ほとんど不可能に近いはずだ。

「まあ、まあ……」

一応文化祭実行委員である俺は仲介に入ろうとするけれど、言い合いはエスカレートしていて、傍観していた奴らまで怒りが伝播してしまったようだった。教室全体が怒りの感情に満ちている。

と、俺は隣にいた藍子に……あれ、藍子がいつの間にかいなくなっている。

教卓の一段上がったところに藍子はいた。ちょうど先生がいつも立つような教卓の前だった。

おい、やめろ藍子。そんなのは火に油を注ぐだけだ――。

俺が大きく息を吸いこんでいる藍子にそう言おうとしたけれど、遅かったみたいだ。

「うるさー------------------------い!!!!!!!!!!!!!」

きっと目の前にいた河合は耳がキーンとしている頃合いだろう。藍子を見ていた俺はかろうじて耳をふさぐことに成功していた。

当の教室は、一回り大きい声に言論がかき消されたようで、しんと静まり返っている。

なんだか小学校の教室みたいだと思った。授業中収拾がつかなくなった教室で声を張り上げる新米教師のような。少し懐かしく感じる。どちらかと言えば藍子はそこで怒られているタイプの女の子だったけれど。

「あんたたち、本当に愚図ね。何かが起こったんなら、それを対処するために協力しなさいよ! 内輪もめなんて、盗んだやつの思うつぼよ。今頃きっとほくそ笑んでいるに違いないわ。ムカつかない? 今もそいつは私たちの苦労も知らない盗人はけらけら笑っているのよ?ムカつくでしょう?だったら協力しましょうよ。ね?」

レイの方が、総理大臣に向いているなんて言ったが、こいつも十分、人を扇動する力があると思う。実際教室は、藍子の声によって突き動かされているみたいだった。「たしかに」「ムカつくね、それは」「うちらの敵は盗人だもんね、男子じゃない…」みたいな声が聞こえてくる。


それから、午前中の不毛な時間を取り返すように、皆作業に取り組んだ。

壁班は、材料をかき集め、何とか壁を形にしてくれた。河合は得意げに鼻をこすっていた。お前それ漫画でしか見たこと無いぞ。

「おばけやしき」を作るということで、以外にも誰も気が付かなかったのは、教室内の電気を消すということだった。だからある定度、塗装などは手を抜いてもいいということだった。しかも意外なことに、昏い状態にするとより不気味さが際立つという発見もできた。

抜くとこ抜いて、てきぱきと仕事は進んだらしい。

後から俺は藍子から聞いた。

そう、聞いたのだ。俺はその作業に参加していない。午後は単独であることをしなければならなかった。

それは、もちろん犯人捜しだ。

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