「うわーそれじゃん」って言われるようなアイデアを出してみたい
人間というのは何事にも慣れるもので、この記録的暑さとニュースで連呼されるような夏でありながら、クーラーのないこの学校での生活にも慣れつつあった。
一番つらかったのは、六月初めくらいの暑さで、まだ暑さに慣れていないときの暑さは拷問に近いものがある。
一応業務用の扇風機は教室に一台設置されているので、そのオレンジの羽から繰り出される風はまさに恵みの風という風で、皆休み時間になるとあたりに来る。最近は便利なものでポータブル扇風機もあるので、それで涼んでいる奴もいる。
そんな状況だから、クーラーは皆が望むものであった。これからも暑くなるというし、文化祭準備をするといっても、この暑さでは作業にならない。むしろ外の方が涼しいまである。
藍子の書いた「クーラー」は本当全校生徒が望んでいると言っていいものかもしれなかった。
「それは名案ですね藍子さん。さすがです」
レイは感心したようにうなずいている。こいつは汗なんてかいたことがないという風な爽やかな顔をしている。汗臭くとかならないんだろうな。
「でも、設置するのがすぐってわけにはいかないだろう。あんまり詳しくないけれど、設置するのは夏の後くらいになるんじゃないか?それなら意味はないだろ。肩透かしというかさ」
流石にすぐにと言うのはフィクションすぎる。確かに総意ではあるけれど、そこに嘘はつけない。あげて落とすなんて、普段の政治家が……。やめておこう。
「確かにそうね。すぐにと言うわけにはいかないわ。だからこれは長期的な目標よ。私が二年生になる夏までには設置をするわ―――だから、今考えたいのは、もっと短期的に成功できてかつ成果が最高なモノよ」
藍子は「クーラー!!!!」と書かれた上に「長期」と書き、其の隣に「短期」の欄を作り始めた。
短期的に導入できるもの。そして生徒全員の総意ともいえるようなもの。それをこれから考えるということらしい。本当に無理難題だと思う。馬鹿な俺では無理かもしれない。
「藍子さん。学食に新たなメニューを追加するというのはどうでしょうか」
レイはすぐに案を出した。確かにそれはアリかもしれない。
「いいわね。えー「学食」っと。具体的には?」
「具体的には――そうですね。ハーフサイズを導入するとかでしょうか。例えばカレーとうどんが食べたいときなんかにどちらも買おうとすると1000円近くになりますよね? それをハーフサイズにして、値段も半分とまではいかなくても、安くして……そうすればいろんなものが一度に楽しめますし、女性の方なんかは、ハーフサイズでちょうどいいという方もいるんじゃないでしょうか。この学校は量が男の僕でも多いと思いますし」
「うわ…いいなそれ」
想像しただけでうれしかった。釜玉うどんとカツカレーが一緒に食えるかもしれないのか。そんなの学校に来たくてたまらなくなってしまう。
しかも、小食な人に向けた配慮にもなっている。この学校は近所で有名になるくらい量が多いということで有名だ。たまに女子生徒が一つのカレーを分け合っているのを見たりするくらい。
藍子もそれは思いつかなかったという風で、「それはいいわね」と腕組をして感心していた。「流石はレイ」なんて言ってやがる。レイもまんざらでもなさそうだ。
「じゃあ、今度は洸祐の番よ。と言いたいところなんだけれど、まずはこっちが先決ね。考えたら即行動。早くしないと明日の仕込みをしてるおばちゃんたちが帰っちゃうわ。学食に行くわよ!」
このあふれ出る行動力を少し分けてほしい。このけだるい暑さの中、どうしてそんな元気があるのか、その秘訣があるとするなら知りたいところだった。藍子は部室を飛び出して、行ってしまった。
廊下は走っちゃいけません!