だだ!?
「この子は、杠葉恋ちゃん!さっき部活のビラを真剣に眺めていたから攫ってきちゃった!」
藍子はそこまで大きい方ではないが、それ以上に小さいことが印象的な女の子だった。そう、女性というよりは女の子と言った方が正しいような小柄な女の子だった。
「殺す殺す殺す……」
と小声で聞こえるような気がするのは気のせいだろうか。頭をポンポンと叩いている藍子のことを、これでもかと睨みつけているのは気のせいだろうか……。
「藍子さん。その方、上級生ではないでしょうか」
藍子はそれを聞いて「はっ」として、というかはっという声を出して、恋と呼ばれる女の子の制服に目をやる。
この学校の制服は単純なブレザーだ。ネクタイの色やリボンの色が違うということで学年を区別している。俺たちの学年は赤、そして二年は碧、そして三年は――青だった。
「青い……だと……!」
藍子は少女漫画もびっくりの白目をむいていた。おいおい、黒目はどこに行ったんだよ。それ戻ってくるのか?
すると、しびれを切らしたのか恋という女の子、もとい、杠葉先輩は椅子に上って、高らかに叫んだ。
其の小柄な体躯からは想像できないような声量で。
「私は!三年の!生徒会会計の!杠葉恋だ!断じて私はこの部活に入りたくてビラを注視していたわけではないのだ!場所が学校でなければこれは誘拐だぞ!一年!」
そのかわいらしい顔や。その体の大きさからは想像できないような声だったので、藍子も俺も飄々としているレイでさえも口を大きく開けて唖然としていた。いやア然としていたと言ってもいいかもしれない。とにかく口がアの形をしていた。
「こんなにかわいいのに?」
「――かわいいのは認めるが……私はこの部活に入る気はない!」
「こんなに小さいのに?」
「小さくない!――そうだ」
「こんなに声がでかいのに?」
「そうだ」
椅子に上ったところで藍子と同じくらいになる身長の先輩を、藍子は懇願するような目で見つめていた。
あれ、俺これ見たことある気がする。
あれは、俺と藍子がショッピングモールに足を運んだ時の事だったよくな気がする―――。
俺と藍子は両親と一緒にショッピングモールに来ていた。
もちろん小さいころだったから、家に置いておくわけにはいかない。そういった理由で連れて来られたのだ。
だからもちろんそんなショッピングモールなんてところに来ても面白いことは一つもない。俺たちはそう思っていたから、二人で追いかけっこして遊んでいた。
そうしてこの場所を公園だと定めてしまえば、ここはなんて面白い障害物がいっぱいある場所なのだろう。隠れられる場所は無数にあるし、喉が渇いたら、試食のところに行けばいい。何ならここは公園よりもいいじゃないか。そう思ったほどだった。
だけど、もちろんそんなことは長くは続かないわけで。
俺たちはすぐに迷子になった。
藍子は、その時俺よりも身長が高かったから、お姉さんという感じだったけれど、握る手はとても震えていた。
そして、その目にはきらきらとした何かが溜まっていて……。
そして、爆発したのだ。
そう。
こんな風に。
地面に寝転がり、手足をじたばたとさせて。
部屋を揺るがしてしまうんじゃないかと思うくらいに大きな声で。
「い~や~だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」