表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女ネイビーとシャングリラ  作者: オカダ倭
59/124

例えば自分の心とか

文化祭実行委員になってもらった方がいいというし、ちょうど文化祭実行委員を決める会があったので、俺と藍子は元気よく手を挙げた。

もちろん、というのも悲しいのだが、このサイレントマジョリティーが多いお国柄を反映したように、俺たちが手をあげると誰も手をあげる気配はなく、すんなりと俺たちは文化祭実行委員に決まった。もしかしたら、俺と藍子が適任だと思ってくれているのかもsれない。いや、藍子はあったとしても、俺はないか。馬鹿だし。

「では時間が余ったので、クラスの出し物を決めます。何かいい案ある人~。私はお化け屋敷!」

と実行委員が率先して意見を出したおかげで、クラスの出し物案は流れるように出てきた。メイドカフェ、縁日、脱出ゲーム、などなど。だけれど、すっかりとクラスの人気者となった藍子の案、「お化け屋敷」が採用されることとなった。大変そうだな。

そして大まかに小道具班とか装飾班とか、受付班とかそういう細かいところを決めて、今日の話し合いは終了した。

休み時間にもその余韻はあるらしく、「どんなお化けにする?」とか「脱出要素はどうする?」とか、盛り上がっていた。

俺はと言えば、一人机に突っ伏して、この余韻が終わるのを待っていた。

俺はお化け屋敷が、世界で一番嫌いだった。


帰り道。

むせかえるような暑さだった。記録的猛暑なんて毎年言っている気がする。何年後か、遠い未来、50度くらいになるかもしれないなんて予測もあるらしい。もし50度になんてなったら、俺たち人間は死ぬしかない。絶滅だ。

話を聞くと、レイも同じように文化祭実行委員になれたらしく、レイのクラスはメイドカフェをやるらしい。それも男女逆転の。

さぞかし美形のレイは重宝されるんだろうな、ちやほやされるんだろうな、なんて思っていると、隣の藍子が「昨日は…」と切り出してきた。

「ありがとね。ちょっと味が薄かったけど、お粥おいしかった」

「一言余計なんだよ。――まあ、おう」

あまりの暑さに俺達は自販機で何か飲み物を買わなければ死んでしまう病にかかっていた。俺はコーラで、藍子はメロンソーダだった。

メロンソーダは着色料が~みたいなことを言おうとしたが、コーラも同じようなものだと思ったのでやめておいた。

弾ける炭酸が喉を焼いていくようで、気持ちが良かった。彼女は炭酸を一気飲みできないらしく、一口一口大事そうに飲んでいた。

「生徒会に入ることになったら、私の右腕になりなさい」

「それは副会長ってことか?」

「そう」

彼女は本当に生徒会長になるつもりらしかった。高校に入って思ったことだが、意外と「元生徒会長」と言う人が多いように思う。内申書が重視されるうちの学校ならではなのかもしれない。当日の試験の点がびっくりするほど低くても、内申点がオール5で、生徒会長だったために合格したという奴もいるらしい。袖ケ浦レイというのだが。

「でもいくら根回しをしてくれると言っても、きっと選挙は避けられないぞ。いきなり知名度もない奴が生徒会長になっても、みんな驚くだろうからな」

「それについては大丈夫よ。この文化祭で知名度は確保するから」

「それはよかった」

意外と向こう見ずな性格に見えて、計画性があるんだよなあ、藍子は。

「ちなみに何をしでかすんだ?」

「しでかすって……私別に問題児ではないんだけど…。ただ、ちょっとステージに立とうかと思っているだけよ。内容は秘密」

「秘密なんてできないぞ。俺達文化祭実行委員だからな」

「そうかもね。でもそれなら改竄も可能ってことじゃない?」

「――やっぱり、何かやらかすつもりじゃねえか…」

なーんてやり取りをしているうちに、手に持つコーラのかさは減り、家が見えてきた。

俺と藍子はお互いの家に帰る。


昔はなんとなく絶対的なつながりがあるように思っていた。けれど年を重ね、言葉を、感情を多く知っていくうちに、絶対的なモノなんてないなんて気づき始めた。

だからいつの間にか藍子が遠くにいるなんてことに気づかずに近くにいた。

近くて遠い。そんな幼馴染。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ