見ているものは見たいものだけ
四年生である成都海の間章が終わり、話が藍子たちの『総理大臣部』の方に戻ります。
後二章くらいでこの話は終わります。何卒。
俺、降谷洸祐が、現生徒会長鶴ヶ島川越に『果たし状』によって呼ばれた日。
俺の幼馴染であるところの紫吹藍子は、俺が生徒会副会長から降ろされたことに安堵の声を漏らした。もしかしたら俺の聞き間違いなのかもしれなかったけれど。彼女は、心底安心したように、胸をなでおろしていた。翌日。藍子は学校に来なかった。
体調不良ということだったけれど、昨日の感じを思い出せば、それが仮病である確率が高いってことはよくわかった。帰りがけに様子を見に行くとするか。
俺が生徒会の副会長から降ろされたということは、学校中に広まっていた。異例中の異例である推薦で生徒会に入るなんてことを仕掛けた手前、自分から辞退したという話になっていて、俺ははじめ困惑したが、圧力によってやめさせられたというよりは聞こえがいいかと思って、話を合わせたおいた。恐るべき生徒会長の権力である。ブレーンのような人物がいるのかもしれないが。
「感心しましたよ、洸祐さん。『こんな裏口入学みたいなことできるか』と生徒会室で言い放ったらしいじゃないですか。やはり僕が見込んだ男ですね」
なんて俺の株が知らぬ間に上がっているのは嬉しいことではあった。いい噂もあるもんだな。でもこいつはきっと違うだろうな。からかう時の顔をしてやがる。
「そういえば、今日は藍子さんいないんですね。病気か何かですか?」
いつもの食堂の席で、俺とレイは生姜焼き丼をつついていた。クラスが違うと、こういう昼食時とかにしか花う機会がないのだ。その点この学校は食堂に力を入れているので快適でいい。学校生徒のほとんどがこの学食で済ませるのだ。残りの一部は弁当を作ってきている。感心だ。
「いや、多分仮病だと思うぞ。あいつ体壊したことないから」
藍子さんらしいですね。なんて上品に笑うレイ。
「昨日の『果たし状』の件で、こんな噂になっているんでしょう? 本当のところは、どうなんですか?」
レイは本当に察しがいい。就職したときにこういう利口な奴が出世するのかもな、なんて適当なことを考えていると、生姜焼きのたれを机にこぼしてしまった。
「本当のところね……本当のところは、降谷洸祐君は生徒会長から解雇されたってところだな」
「ほう…それは何というか、藍子さんは怒ったんじゃないんですか? 『私が生徒会長になりやすいように土壌を整えておきなさいよ!』みたいな感じで」
レイの藍子の真似が驚くほどに下手だったことは置いておくとして。俺もほとんどレイと同じような意見だった。彼女は怒ることはすれ、安堵の声を漏らすような反応をするとは思っていなかった。付き合いが短いレイですら思うのだから、ほとんどの人はそう思うのではないだろうか。この俺も含め。
「それが、あいつ、俺が副会長から降ろされたことに、『よかった』なんて言いやがったんだ。よくわからないだろ?」
レイも予想外のことを言われたように首をかしげてしまった。まるで昨日の夜の俺を見ているようだった。おかげで今日は少し寝不足だ。
「それは、興味深いですね……」
イケメンが顎に手を添えているだけで、こんなに絵になるものなのかと思う。所作に理由がついてしまうのはイケメンの特権かもしれない。妬ましい。
レイは、「でも…」と、
「でも……少しわかる気がしますね」
とレイは俺が一晩考えても思いつかなかった可能性を述べるのだった。ほんと、良く藍子のことを見ている。幼馴染の俺よりも。




