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少女ネイビーとシャングリラ  作者: オカダ倭
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間章 受験って何だろう

それからは目まぐるしく環境が変わった。ケンジは受験勉強に忙しくなり、学校が終わると、すぐに塾に行くことになった。俺はもちろん塾なんて通わないので、一人で帰ることが多くなった。

けれど、あの日から俺とケンジは連絡をきちっと取るようになった。別に相手の気持ちを過剰に考えたりしなくていい、フランクなメッセージのやり取りだった。

生徒会も代替わりをし、杠葉ちゃんと鶴ヶ島は継続してくれた。鶴ヶ島は会長になったし、恋ちゃんは会計になってくれた。恋ちゃん数学苦手って言っていたけれど大丈夫かな……。

そして、11月も終盤に差し掛かり、「秋ってどこにあった?」とつぶやいていた矢先に、俺は職員室に呼ばれていた。

職員室に呼ばれる、なんてイベントがある時は大抵担任の先生だとか、顧問の先生だとかだと思うのだが、俺が呼ばれたのは家庭科の先生だった。なんだかほとんどみんなのお母さんみたいな先生だ。学食で調理もしてるし。

「ちょっと~海君。この学校単位制なのは知ってるでしょ~? 最近髪も伸ばして、不良になっちゃったのかしら。出席全然してくれないじゃない~。だからね、学年主任に言われちゃって~」

間延びした話し方をする先生なのだ。歴史の先生と共に、何か催眠術を体得しているのではないかと噂されている。午後の授業になった時なんて大変だ。生き残っている生徒の方が少ない。

「何をですか?」

俺がそう言うと、先生は一枚の紙を差し出してきた。

学校の名前が書かれた正式な書類らしきものだった。

「あと一回でも休んじゃったら、家庭科の単位が認められなくて、来年度に再履修することになるっていう書類なの~。だからね、海君。絶対にもうこれ以上休んじゃだめよ~」

そこに書かれていたのは、校長先生のハンコや、学年主任のハンコが押された仰仰しい書類だった。その一番上には『単位認定に関して』と書かれている。

「わかりました。気を付けます。あらかじめ言ってくださってありがとうございます」

「いいのよ~四年生を持つなんて嫌だからね~」

と家庭科の島村先生は仕事に戻る。


ケンジもそそくさと塾に行ってしまったし、することもないので、俺は一人でとぼとぼ歩いて帰るのだった。冬はもうそこに顔を出してきていて、手袋が欲しいころ合いになってきていた。

「よう、先輩。受験生なのに勉強をしないという噂は本当らしいのう」

と恋ちゃんが横から鞄をぶつけざまに失礼なことを言ってきた。本当の事だから反論はしないけれど。

「そういう恋ちゃんこそ、生徒会をサボっているらしいじゃん。大丈夫?」

新生生徒会だというのに、サボって、生徒会に顔を出していないということをケンジから聞いた。まあ老兵はこういうことに顔を出さないべきかもしれない。

「別に…あの鶴ヶ島のやり方が気に食わないというだけじゃよ。わしは正直海先輩の方がよかったと思っとる」

「そんなことをいっても、俺は戻らないぞ」

「本当の事じゃ」

なーんて話をしながら、ほとんど水位が無くなった枯れた川を尻目に二人で歩いていた。

夏が過ぎ、秋が過ぎ、受験生になり損ねた俺。そしてまっすぐに自分の未来に突き進んでいくケンジ。それがたとえ決められた未来だとしても、いや、決められているからこそ俺は彼がうらやましいと思うのかもしれない。

「でも何か先輩の事じゃ。何も考えてないように見えて、しっかりと答えを持っている先輩の事じゃ。何か思惑があるんじゃろ?」

妙に鋭い恋ちゃんだと思った。俺が成長しているとかケンジが成長しているとかと同じように恋ちゃんも、そして鶴ヶ島も成長しているということだろう。

「まあ、詳しくは言えないけれど……」

そう。思惑は暴かれてはいけない。親しい恋ちゃんにも隠さなければならないというのは心が痛むモノがあったが、先生とつながりが強い彼女にはもちろん言えるわけもなかった。

だが、とりあえず。

「これからも、特に来年はよろしくな」

これくらいならばいいだろう。

恋ちゃんは、何を言っているのかわからないという風だった。

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