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少女ネイビーとシャングリラ  作者: オカダ倭
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間章 ケンジの未来

「俺はここに書かれている『未来視』なんだ。そういう役割が割り振られた。この学校、というかこの学校にいる何者かによって。歴代生徒会はこうした役を誰かに当てはめてきたらしいな。俺がこの能力を使えるようになったのは現に生徒会に入った直後だったしな。

「初めは混乱したよ。今見ている現実の映像と未来の映像の区別をつけるのに苦労した。だから、はっきりとこれが『未来』だという風に理解できたのはつい最近の事なんだぜ。すごいだろ。

「でも、未だに妄想なのか未来なのかは厳しいものがあるけれどな。―――俺は将来、私立大学に進学して、一流企業に就職して、結婚して子育てして、孫の顔を見る前に死ぬらしい。というか、子供が小学校に入る前に全部終わるらしいぜ。全部見たんだ。見せられたし、魅せられたよ。この甘美で最低な未来ってやつをな。

「まあ、俺の未来なんてどうでもいい。肝心なのは、お前の未来だ。大体の人物の未来は自分の者ほどはっきりとはいかないまでもそこそこわかるんだぜ? ちなみに岩ちゃん先生は後二年で結婚する。中学校の同級生のエリートサラリーマンとな。―――でも、一人だけ見えないんだ。そう、お前の未来だけが。

「『エゴイスティックサマー』なんて大層な名前を付けてくれたもんだよな。ただ、今から十年後の夏、世界が終わるってだけなんだけれどな。紫吹藍子によって。

「紫吹藍子ってのは、俺たちが卒業した後、入れ替わりでこの学校に入学してくる女生徒だ。――完全に頭のネジが外れたやばい奴だ。この資料によれば、『全能』の能力者は、何でも自分の想い通りになる。テストで一番になりたいって思えばその通りになるし、金が欲しいと思えば宝くじに当たる。しかもこれがすごいんだ。世界の秩序を壊さないように、自動で調節してくれるフルオート機能付き。毎日宝くじに当たってたらおかしいもんな。それすらも自分の想い通りってことだ。

「代々生徒会には『未来視』『魅了』『時間遡行』の能力が割り振られる。でもあらかじめこのことを知った人物には割り振られず、そこらの一般生徒へと割り振られてしまう。だから「マル秘」なんだ。初めに見てしまえば、収集のつかないことになるからな。

「俺は見た。逃げ場のない災害ってやつを。何処を見ても、星が降って、海がいなないて、風が切りつけてきた。火事が起こって、なのに雨も降って。川は氾濫して。…………考えうる限り最悪だったよ。そして俺はそこで命を落とすんだ。それが俺の十年後の夏。『エゴイスティックサマー』だ。たった一人の少女、紫吹藍子が一つ「こんな世界なんて」と思ったからこうなったんだ。

「俺は、もうこれ以上他の奴に、こんな思いをさせたくない。そして、俺は死にたくない。十年後も、二十年後も、お前と、そして未来の奥さんと一緒に居たい。きちんと仕事をして、きちんと子供に愛情を注いで、孫にはお小遣いをあげて。そして死ぬまで笑っていたい。

「未来が見えるってのは不便だよ。いま設定されている十年後の『エゴイスティックサマー』が早まったり遅くなったりしないように、俺は決められたレールを歩いていかなきゃないんだからな。じゃないと、未来が変わってしまう可能性がある。

「ここに書いてある歴代生徒会は、それをきっと見て見ぬふりをしていたんだ。きっと「俺達には関係のないことだ」ってな。

「でも俺はそうは思わない。

「だからさ、カイ。」

ケンジは俺の目をじっと見つめる。そこには、決意と、熱意と、失意が込められていた。自分が死ぬ。そしてそこまでの道筋が決まっている。果たして俺がこいつの立場だったならば、耐えられるだろうか。こんな風に疑問で止揚しなくともわかる。俺にはできないと。

ずっと見てきたからわかる。こんなに快活で、筋肉質で、おおらかなケンジだけど、本当は弱いということを。その心は意外にもすぐに瓦解してしまうことを。彼の両親が死んだときの、昏い目を知っているから。

そんな風に知った気になっている自分にも嫌気がさす。こいつはきっとわかってなんて欲しくないなんて言わないだろう。そのことが余計に俺をみじめにさせるのだ。

彼が俺の名前を呼んだ。いつになく真剣に。まるで切り刻むかのような鋭い決意を俺に向けながら。

答えないわけにはいかないだろう。だって――親友なんだから。

「だからさ、カイ。一生のお願いだ。俺の未来に出てこない、唯一の親友。お前にしか頼めないことだ。来年入学してくる紫吹藍子を頼む」

初めて見る、一生のお願いの有効な使い方だ。

そんなの。

いいに決まってんだろ。

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