間章 『エゴイスティックサマー』
「知っているなんてまるで未来が見えるみたいじゃないか。どうかしたか?ケンジ」
後ろ手に持ったノートを机の引き出しにしまった。なんとなく、バツが悪い気がしたからだ。こういうところが変にまじめだとよく言われる。
「だから、隠すなよ、それ。これからの話に必要なんだから、よ!」
と机に回り込んでひょいっと隠したノートをケンジは奪い去ってしまう。あんなにもへたれていたノートだったから、壊れないか心配だったが、さすが日本製。信頼できる。大丈夫そうだった。
「へえ。中身までは見れてなかったからな。きちんと記憶しておかないと……。」
とケンジはそのノートを凝視して、黙り込んでしまった。
「あ、大丈夫だからな、鶴ヶ島と杠葉にはちょっとした仕事を頼んでおいたから、しばらくは来ないぜ。だからここには俺とお前の二人だ。秘密が漏れることはないよ」
「秘密?」
「そう、秘密。ほらここに「マル秘」って書いてあるだろ? だから秘密。こう書いてあるから馬鹿正直に隠そうとしてたんじゃないのか?」
「確かにそうだけど……」
何もかも見透かしたように話すケンジに俺は少し辟易していた。たじろいでいた。俺ではないどこかを見ているようで、今に生きていない人の眼をしていたからだ。
「この時点では何も知らないんだもんな……。じゃあ、とりあえずこのページだな」
と言って差し出されたノートには、大きく『エゴイスティックサマー』と書かれていた。直訳すれば、自分勝手な夏という風な意味だろうか。
そしてその下には、容疑者欄が設けられていた。未来視、魅了、時間遡行、全能。という文字が羅列されている。
ケンジはその『未来視』の欄を指でなぞる。確かめるように、再会するように。
「お前は、世界が終わるかもって思ったことはないか?」
「世界? そんなの終わるわけないだろ」
「だよな。それが普通だと思うよ。俺も実際この学校に来るまでそう思ってたしな」
ケンジはノートをパタンと閉じて、こちらをじっと見つめる。何処か決意を含んだ目だった。もしかしたら、何か俺に懇願している目でもあったかもしれない。
「でも、世界は終わるんだ。たった一人の少女によって。『全能』の能力を持った、紫吹藍子という女生徒によって」
と全く聞き覚えのない名前を言うケンジ。
俺は話の突拍子の無さに、頭がくらくらした。蝉がわんわん泣いているのが頭の中にこだまする。グルグルとまわりまわって、俺の目さえも回してしまいそうだった。理解が追い付かない。だけど、
きっとこれは夏の暑さのせいじゃない。