間章 ホットパンツのホットってなんだろう
「こんなところに、いい感じの棒が」
とケンジが鉄骨のような棒を持ってきた。
うん。これならばてこをしている途中に折れるなんてことはないだろうし、体重をかけてもひしゃげるなんてこともないだろう。
其の鉄骨を机がカーペーットに接している部分に差し込む。ほどほどに毛の長いカーペットなので、差し込むのは容易だった。
「せーの」
と男子三人が一斉に力を加える。
すると、岩か何かだと思っていた机が、ほんの少し動いた気がした。
「動いた!動いたのじゃ!」
観測をしていた杠葉が声をあげる。
ただ机が動いただけなのに。なんとも変な四人だと思った。
あんなに力を加えても動かなかったというのに……。やはり愚直な努力なんかよりも、きちんと考えたうえでの努力が重要ということになるということだろうな。これからもう受験戦争に巻き込まれている自分としては、見習わなければならない姿勢なのかもしれない。
と、将来に不安を感じながら突き進むかっこいい受験生像を描きながら、机が動いたことに感動を覚えていると、机とカーペットの間に何かが挟まっているのを見つけた。
「なんだこれ」
と、ちらりと確認すると、そこには「マル秘」という風に書かれていた。初めは何かの拍子で挟まってしまった紙屑かと思っていたのに、仰々しくもそんなことが書いてあった。
「じゃあ俺たちは、手ごろな棒を探して、転がせるようにするけど、カイはどうする?」
足元に挟まっているその「マル秘」をとっさに足で隠す。別にばれてもいいはずなのに、なんだか悪いことをしている気がして、隠してしまったのだろう。
「じゃあ、運び出せるように、ここらを掃除しておくとするよ。恋ちゃんと」
「な!?」
恋は予想外という風に驚愕を隠せないでいた。
じゃあ、またな、と言って鶴ヶ島とケンジは行った。
「ちょっとわしも席を外したいんじゃが……」
「どうした恋ちゃん。片付けは嫌か?お嬢様である恋ちゃんはこんな埃っぽい部屋で片付けなんて嫌か?」
「どこか、厭味ったらしい何かを感じるが……そうではないんじゃが…。いやそうとも言えるというか、緊急を要するというか……」
「緊急? それは大変だな。アレルギーとかなら行ってもいいんだが、君は確かなんのアレルギーもなかったはずだしな、でも一人では手にあまるしな……」
と一人緊急の事態について思案していると、恋ちゃんの顔が真っ赤に染まっていくのが見えた。恥ずかしさとか、怒りとかそんな風な形相だった。
「え、なに?」
と言うと、彼女はからかわれていると思ったのだろうか。その堪忍袋の緒がぷっつりと切れ、いつもかわいい顔が、般若面みたいに吊り上がっていた。
「わしは!トイレに!行きたいんじゃ!それくらい察せ!ボケ!」
と怒られた。でも、こういう時は怒られているときは怒られたままにするのが得策だと俺はこの時初めて知った。言葉をはさむべきではなった。
「大きい方?」
「……小さい方じゃ!」
その振り上げた足は奇麗な放物線を描いて、俺の脳天へと吸い込まれるようにして直撃した。
鮮烈なかかと落としだと思った。格闘技をそこそこ見る俺から見ても、かわいいパンツだと思いました。




