間章 夏と廃屋は冒険の枕詞
なんだか結局身内だけになってしまったな。
全員生徒会だし。
旧校舎はほとんど廃校という感じで、門は錆がぽろぽろと落ちるくらいには腐食が進んでいた。ガララと開けるときには「キキイ」という風に滑車が鳴いた。
下駄箱と思しき入り口には蜘蛛の巣が所狭しと並んでいて、どこかかび臭いような気がした。木造の造りであるし、使われていないとこうも腐敗が進んでしまうものなのかと感心すらする。
「先輩、マスクをどうぞ」
と鶴ヶ島が不織布のマスクを取り出してくる。本当に気が利く後輩だ。あのしょってきたバッグにはあと一体どれほどの秘密道具が入っているのだろうか。
「本当に気が利くのう。ありがたいわ」
と杠葉が俺に向かって手渡されたマスクを奪い取ってしまう。
「杠葉!これは先輩のために僕が持ってきたマスクなんだぞ!お前になんぞやるマスクはない!」
「ケチな男じゃのう…そんな箱いっぱいにマスク持ってきておいて……」
と杠葉は鶴ヶ島のヒステリーにも動じない様子で、奪い取ったマスクをつける。本当に杠葉の胆力にはいつも驚かされる。未来の生徒会は安泰かもしれない。
「それはどうかな」
とケンジが目の前の惨事を見て、ほとほとあきれた様子で言った。
漫画的表現のように、わちゃわちゃと埃が立ち、時々彼女らの顔が見えるように喧嘩をしていた。
本当にたくましいな。あ、ケンジに殴られた。
物が散乱しているので、土足のまま入った俺達だったが、それでも生徒会室に向かうのは困難を極めた。めちゃくちゃ窓ガラスが散乱しているし、バリケードのように机が散乱していたので、たどり着くのも一苦労。
どうして廊下をふさぐように机が並べられているのかどうかの考察はいつかするとして。
俺達は二階左手一番端の教室――生徒会室にたどり着いた。
重いドアはおそらく経年劣化で蝶番が壊れていたのだろう。ドアが外れている。ただ入口に立てかけられていただけだった。
それを俺とケンジでどかすと、いよいよ目的地にたどり着いたという感があった。
深紅のカーペットが敷き詰められた豪奢な作りの生徒会室だった。壁には歴代のお偉いさん方の写真が仰々しく飾られているし、天井まで届く本棚には歴代の生徒会の資料が並べられていた。整然と、みっちりと。
「これじゃのう。これ、おぬしらだけで運べるのか?」
と杠葉がこの生徒会室の真ん中。年季が入っているのが良くわかる会長の机を指さして言う。
恐らく優に100キロは超えているだろう。それほどに大きな机であり、本物の木を使っているようだった。もしかしたら石なんかも使われているのかもしれない。
「うわ、本当ですよ先輩。これじゃあ動かすこともままなりませんよ。どうします?」
と鶴ヶ島がその華奢な体を使って動かそうとするが、びくともしていなかった。そのあとケンジが試みたけれど、もちろんびくともしなかった。俺は言わずもがなだ。
「おぬしらもっとがんばるのじゃ。わしは力になれないからのう」
と杠葉は本棚から活動記録を適当に見繕ってパラパラとめくっていた。
はあ、全くどうするかな。