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少女ネイビーとシャングリラ  作者: オカダ倭
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サラブレット

「僕、興味あります」

昨日徹夜して作ったビラやポスターを学校中にばらまいていているときだった。なんだかいけ好かない顔した美男子がそこにいた。

「え、何?」

いやいや、まさか『総理大臣部』なんて部活動に入る変人がいるはずもないので、俺は聞き間違いだと判断し、ビラを教室の壁に貼り終えると、去ることにした。

「ちょっと待ってくださいよ洸祐さん」

――おいおい、まさかな。

「まさか、この部活に入りたいなんて言うんじゃないだろうな」

俺はついてくるいけ好かない男を制止するように、言った。ビラを掲げて。彼の視線はそのビラと俺の顔を往復した後、目を輝かせながら、

「もちろんです。僕はきっとこの部活に入るために生まれてきたんです」

なんて歯が浮くような、俳優じみたくだらないことを言ってのけるのだった。


「まずは話を聞こうかしら」

俺は怖くなって、とりあえず藍子に電話した。まるで上司に連絡するみたいに丁寧な仕草に、いけ好かない変人は、「弱みでも握られているのか」と思ったことだろう。あながち間違ってはいないが。

そしたら藍子は『とりあえず面接からね』といって、俺はこいつと一緒に部室に行くことになったのだ。

中に入ると、そこにはおあつらえ向きのサングラスをかけた藍子が鎮座していた。という次第だ。

なんだかこいつの面接像というのは、昭和当たりのイメージで固まっているのではなかろうか。そういえば、任侠映画好きって言ってたもんな。――いや、それにしてもおかしいだろ!

「藍子さんは、総理大臣になるんですよね」

「そうよ」

間髪入れず藍子は答える。何処まで本気なのかはわからなかったが、声色だけをとって言えばそれは本気ということなのかもしれなかった。

「じゃあ僕たちは運命ですよ。僕はずっと総理大臣の秘書になりたかったんです。」

「え?」

「は?」

藍子は目を輝かせる。

俺は困惑する。

「あ、名前がまだでしたね。僕は袖ケ浦レイって言います。ちょっとここのパソコン借りますね……はい、珍しい苗字なので信憑性は高いかと」

そう言って見せてきた画面には、『歴代総理大臣』というページが表示されていた。

現行の総理大臣から、大昔の総理大臣までずらっと一覧になっているところの、比較的最近の総理大臣。そこには『袖ケ浦昭三』という名前があり、厳格な顔が写った写真も添えられていた。

「袖ケ浦って、そういうこと……?」

藍子はもう目の輝きが隠しきれていない。あふれんばかりに輝いている。あれ、いつの間にかサングラスが取れているな。もうそのキャラやめたのか。

「はい。僕の祖父は袖ケ浦昭三その人です。もしこれでも信じていただけないようでしたら、写真でも……」

とスマホの写真フォルダを漁ろうとするレイ。だが、その手は止まった。否、止められた。

藍子は彼の手をぎゅっと握り、ぶんぶんと振り回し、

「決めたわ、あなたはこの部に入りなさい!そして私の秘書として、馬車馬のように働いてもらうわ!あ、でも、総理大臣になるのは私。くれぐれも出しゃばったりしないように!」

相変わらずニコニコしているレイ。頬を紅潮させている藍子。そして頭を抱えて、未来に不安しか感じない俺。

袖ケ浦レイは、今日この時間をもって、この『総理大臣部』に入部することとなった。


学年のクラスは10を超えるので、三年間という短い期間、全く知らないというやつも出てくることがある。

俺にとって、袖ケ浦レイという男はそういう存在だった。

定期テストの順位は古風にも張り出される学校であるので、名前だけ知ってはいた。名前が片仮名ということも相まって、とても目につきやすいのだ。

もちろんレイはいつも上位にいた。だから余計目についたということでもあると思う。

だけどまさか、袖ケ浦総理大臣の孫だなんて、夢にも思わなかった。

「レイ君ってとても使えるのよ!」

藍子は彼が入部したその日から、彼のことをこき使っていたらしい。俺はバイトがあったから帰らなければならなかったが、あの後、すぐに部室の掃除や、備品の移動などを手伝ってもらったと次の日藍子から聞いた。

「へえ、じゃあ、秘書はあいつでいいな」

俺は正直彼が入ってくれてとても安心していた。

だって、本物の政界関係者?で、イケメンで、勉強もできて、掃除や備品移動がとてもよくできたということは運動神経もいいのだろう。

そんなスーパー高校生が秘書なら藍子も満足するというものだろう。

でも、藍子はそんな俺の言葉に過剰に反応した。

「何言っているの?レイ君はあくまで副総理大臣候補よ。だから洸祐は秘書のまま。」

さも当たり前のような口調でいうものだから、俺がおかしいのか、藍子がおかしいのか、よくわからなくなってきた。

「へいへい、そーですか」

机の中に入った教科書やら余ったビラやらを鞄に詰め込む。

もう放課後で、教室には俺と藍子しかいなかった。

下校時刻を告げる放送がしきりに繰り返されている。

総理大臣(仮)、副総理?(仮)、そして秘書。これだけ揃えば、藍子の『ごっこ遊び』もそろそろ終わりに近づくだろうと思った。彼女は飽き性だから、俺が中学二年の夏休みを使って教えたギターを一か月も立たないうちにやらなくなったように、今回も「あーきた」ってやめると思ったのだ。

だけど、彼女は、まだ、飽きていないらしく

「じゃあ、次はかわいい女の子を連れてきて頂戴」

秘書君☆なんてウインクしても、俺は絶対にうなづいたりしないぞ。

と一度は決心した俺だったが、彼女の飽き性が移ったのか、その決心はすぐに揺らいだ。

彼女が温めている拳を見て。

――幼馴染じゃなかったら訴えてるな……。

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