シャングリラのために
一応、こちら「シャングリラのために」で第一章が終わります。
次は間章として、あの四年生の話になります。
と言って、先輩はそそくさとどこかへ行ってしまった。
またもや、消えるように。
明らかに、彼は普通ではなかった。普通の人間では、なかった。俺にはそれだけが、それだけしかわからない。
『与える』とか『貰う』とか、よくわからないことを言っていた。
そしてもう一つ、彼が俺の前から姿を消すと、部活動の生徒たちが、ぞろぞろとグラウンドに入ってきた。
校庭に一人ぽつんと立ち尽くす俺のことを、怪訝な目で見てくる。それもそうか。部活動に入っていない人間が、校庭に佇んでいたら不審に思うわな。
金輪際、関わらない。
別段、これまでも関わっていたわけではないと思うのだが、突然に絶交宣言をされた俺は、少なからず傷ついていたように思う。心がずっしりと重い。
時刻は7時になった。藍子に、「7時に正門前に集合」と釘を刺されていたからだ。
部活動を終えた人たちが、ぞろぞろと正門から出ていく。俺のことをみて「校庭に立ってた人じゃん」とか言っている。部活動をしている生徒らしく「今日の練習キツかった」だとか「顧問怖かった」だとか「今日は練習終わるの早く感じたな」とか話していた。とても青春を謳歌しているとようだった。俺は卑屈にならずに、ただ単純に「羨ましい」と思ってしまった。
「よっ」
と藍子が俺の背中にバックをぶつける。
「じゃあ、帰るか」
俺と藍子は歩き出す。
もう気が付けば日が長いもので、冬はもうとっくに暗くなっているという事実に若干の疑問を抱くくらいにはこの暑さに慣れかかっていた。もしかすると、暑さに慣れてきたのかもしれない。
「いつも『いてぇな』とか、悪態つく癖に、今日は何にも言わないから」
と彼女は俺のことを心配してくれた。
学校から家への道のり。
それほど遠くはないけれど、かといって短くもない。俺と藍子の大事な時間なのかもしれない。互いに、真面目な話をできる、そんな道だと俺は認識している。彼女はどうかわからない。なんでも一生懸命に行えてしまえる彼女だから、この時間が彼女のピンと張った精神を和らげるものであればいいと思う。
――とか格好つけておきながら、心配されているのは俺の方だったが。
「今日って、『果たし状』の日でしょ? 校庭に集合って聞いてたから、私も見に行こうとしたんだけど、なんだか担任に呼びとめられて……」
と、申し訳なさそうにする藍子。
「結果は? あの現生徒会長に何を言われたの?」
「絶交宣言をされたよ。今日が初対面だったのにな。俺は生徒会副会長から降ろされることになりそうだ。ごめんな。」
と、俺は事実だけを淡々と答える。部活動を行うべき時間に校庭に居たにもかかわらず、邪魔だといわれることもなく、そして俺と先輩の問答が終わると同時に部活動が始まったこと。そんな曖昧模糊としたことは言えなかったが。
彼女の夢は総理大臣。
そして通過点として、生徒会長を志している。
俺が生徒会副会長の座を守っていれば、もしかすると藍子はもっと楽に生徒会長になれたかもしれないというのに。俺は少なからず申し訳なさを感じていた。
「よかった……」
だというのに。
彼女はそんな言葉を吐いた気がした。
こうも暑い夏の日だ。もしかすると俺の聞き間違いということもあるだろう。
家の前に着き、彼女はいつもの快活な笑顔で「またね」という。
どこか憑き物の落ちたような顔で。
俺は一抹の不安を、その彼女の笑顔に感じた。
初めてこうしてあとがきを書いています。ランキングに載るだとか大層なことはできていません。ですが、読んでいただいている数十人の方へ。僕はあなたたちのおかげでこの物語を紡げています。ありがとうございます。
やはり異世界物が強い場ではありますが、これからも頑張っていきますので、よろしくお願いいたします!