一足飛ばしの世界
そんな胸のわだかまりを抱えながらも、時間は無常に過ぎていくもので、眠たかった昼休みあとを乗り越えた俺は、更なる難関へと駒を進めなければならなかった。
『果たし状』
としてわたされた紙を広げる。時間はもうすぐ5時になる。
思えば日も長くなったもので、5時と言ってもまだまだ夕方と言う次第だ。夜にはまだ程遠い。
そういえば、俺は失念していた。
当日にならなければわからないこともあるということだろう。校庭に俺は到着したのだが、ここには誰もいない。人が一人もいない。
5時の校庭なんて、いつもは部活動を行なっている生徒で賑わっているはずなのに、だ。
そこまで広くはないグラウンドだから、サッカー部やら陸上部、そして野球部なんかが分割して使ったり、日程を分けて試合するのが恒例なはずだ。
そして、この月曜日、部活動がオフになったなんて話は聞いていないが。
それならば帰りの段階で、やたら声のでかい野球部員が「今日はどこいく?」とかの声を上げてもいいはずだろう。
それもなかった。
ただ、皆が当たり前のように、帰宅している。
俺は異様な空気を感じた。
「やあやあ、君が降谷洸祐君だよね?僕は鶴ヶ島川越。この学校の生徒会長をしているものだよ。よろしく」
ここは校庭の真ん中である。
そして、彼は歩いて来たはずだ。でもそれならば、ずっと視界に捉えていてもいいだろう。
端的に言おう。
彼はどこからともなく、現れた。
「そんなに怯えないでくれよ。ちょっとからかっただけじゃないか」
生徒会長は、そんなふうに、俺のことを馬鹿にするように言った。
第一印象はといえば、これは最悪の部類に入りそうなものだった。
鼻にかけるという感じが、鼻につく。
「それで、俺はどうしてここに呼ばれたんですか」
部活動の生徒がいないということはとりあえず置いておくことにした。なんだか嫌な感じがするので、手短にことを済ませたい。
「君は臆病と同じくらいせっかちなんだね。──どうして君みたいなのが選ばれたんだか僕は不思議でならないけれど。違和感を覚えるわけなんだけれど。気に食わないんだけれど。まあいいさ。先輩だからね、多少の無礼は許すって方向で行こうか。それで今日君に来てもらった訳、というか要件はね」
と、会長は指を鳴らした。初めによろしくと来た時も、指を鳴らしていた。彼の癖なのだろう。
「君を副生徒会長とは認められ無いということを言っておこうと思ってね」
と現生徒会長は、不適な笑みを浮かべる。