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少女ネイビーとシャングリラ  作者: オカダ倭
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ままならないアナタ

自分の顔と、他人の顔が似ているなんてことを言われたときに、ほとんどの人はこうおもうのではないだろうか「え、そんな似ているか?」と。

かくいう俺もその一人だった。

あの藍子を危険にさらし、元生徒会長で、そして髪が長い女口調の四年生。成都海先輩と、この俺が似ているなんてことを言われても、実感がわかないというのが本音だった。

あの理科室は照明がなく、薄暗かったから先輩の顔はほとんど見えていなかった。髪が長いこともあって、顔がさらにわかりにくかったというのもあるので、俺は彼の顔をほとんど見れていない。

だけど、そんなに似ているという風に、思った記憶はない。

しかも、俺はそんなに自分の顔を鏡で見ないので、自分の顔がよくわかっていないというのがある。もしかしたら、よく身だしなみに気を使う人ならば、自分の顔を描写できるのだろうか。絵でも、言葉でも。

有名な画家は、何枚も自画像を描くというが、そうやって自分の顔をきちんと理解している人はどれだけいるのだろう。そういった人がもし「自分に似ている」という風に言われたとしたら、どういった反応をするのだろうか。

俺は、そんなわけはないだろ、とおずおずとしている藍子に向かっていった。彼女も「そんなことはない」という前提の下で話していたのだろう。「そうよね」と安心したように、会話を終わらせた。

そんなこんなで家につき、夕ご飯を食べ、そして風呂に入ったりの身支度を終えた俺は、自室のベッドに横たわっていた。

まだまだ夏とは言い難い。夜になり、日が完全に落ち切れば、そこにはひんやりとした風があるからだ。夏本番のような寝苦しい夜とは違う。

俺はこの風が嫌いではない。というか好きだ。だから今日も今日とて窓を開けながら風を感じていたのだが、その窓の奥か「からから」と窓を開ける音が聞こえた。――藍子だ。

「なんだ、寝れないのか」

「まあね」

いくらいい風が入るといっても、寝れない夜もあるだろう。

藍子は滔々と話し始める。

「ねえ、洸祐」

お互いの顔は見えていない。

声だって消え入りそうなほどに聞こえにくいけれど、何年もこういうことをしているから、慣れた。

「なんでも自分の想い通りになるとしたら、どう?」

いつもは天真爛漫という言葉がにあう彼女だが、こうしていると、普通の悩み多き高校生という気がする。

「それはさぞかし、楽しいだろうな」

率直な感想だった。自分の想い通りになれば――この世界は生きやすいだろう。

こんな、心の中にわだかまる気持ちさえも、はっきりとするんだろうな。

「そうよね。洸祐はそう言うと思ってた。いや、ほとんどの人はそういうのかもね」

まるで、自分はそうではないかのように、そんなことを言うのだった。ほら、やっぱり、こんな疎外感さえも説明がつくのなら、思い通りになる方がいい。

「でも、たった一つだけが思い通りにならないとしたら、どうする? それ以外はうまくいくかわりに、その一番大切なモノは思い通りにならない。そうしたら?」

何でこんなことを訊くのだろう。と言うことはしない。これは俺にとっても、藍子にとっても大切な時間だと思うから。

質問。俺には一番大切なモノなどあるのだろうか。

何でもそこそこできてきた俺が。

というか、そんな大切なモノがある人ってのは、一握りの人ではないのか?

だけど、考える。俺にとって、一番ではなくとも、大切なモノを。

「それは、辛いだろうな」

だろう。と推量してしまう。俺にはまだ、そして今後一生わからないのかもしれない気持だろうから。

「そうね。辛い」

彼女は推量しなかった。

沈黙が流れる。沈黙は金、というのはいささか違う気がするが、それでもこの沈黙は心地のいいモノだった。きっと、早夏の風のおかげもあるのだろう。

「明日、頑張ってね」

「ああ」

「おやすみ」

「おやすみ」

何を、とは言わない。それは無粋というものだろう。

そして俺は窓をそっと閉めて、すぐに眠りについた。

彼女の表情なんて考える隙も無く。



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