無味無臭の夏と彼
結局、先生が言った、俺と成都海先輩が同じ、ということに対する疑問は解消しないままプール掃除の仕事は終わったのだった。俺の心にはずっともやっとしたわだかまりが残ったままだった。
先生は手伝ってくれたお礼に、と言ってジュースやらアイスやらをコンビニで急いで買ってきてくれた。藍子は迷わずにエナジードリンク系のドリンクと、スイカバーを。そして恋先輩はオレンジジュースとガリガリ君。そしてレイはお茶と小豆バーを取るのだった。
かくいう俺は、水とアイスボックスを袋の中から取り出した。
「なんだか、すっかりと夕方になってしまいましたね」
レイがそんなことをいうものだから、公園のベンチにたたずみながらアイスを食べている俺たちは感傷的な気分に浸っていたと思う。少なくとも俺は、そういう気分だった。
なんだかんだ水にぬれて、日差しを浴びて、疲れていたのだと思う。海水浴場から帰った後の心地のいい脱力感に襲われていた。そんな火照った体を、アイスと水が優しくなでるように冷やしてくれていた。
「そういえば、明日じゃろ。あの『果たし状』の件。鶴ヶ島川越生徒会長がよこしたあれ」
俺の隣に座って、ガリガリ君を頬張る恋先輩は言った。
「というか、恋先輩というな。杠葉先輩と呼べ」
「はは、すみません。恋ちゃん」
ムキ―と怒られると思ったのだけれど、別段そんなことはなく、半ば呆れられているようだった。本当にやさしい人はゆっくりと怒るというのは本当なのかもしれない……。
「きっと、あの鶴ヶ島は何かを企んでる筈じゃ。きっと、おぬしを陥れるような何かをな。わしは生憎とあの鶴ヶ島のグループには属しておらんし、中立を貫いているから、ほとんど情報はないがな……わしはおぬしのことが好きじゃ。だからちょっとだけ味方をしてやる。光栄に思えよ、後輩」
あの『果たし状』きっと目的は、俺が生徒会副会長に任命されたことに対する報復だろう。話を聞く限り、生徒会は分裂しているらしいが……。
「まあ、何とかなるでしょ。私の秘書だし。というか、何とかしなさい、洸祐。そうじゃないと私が許さないわ」
「……へいへい」
こいつは俺の上司か何かなのだろう。スイカバーを子供みたいにほおばりながら、俺のことを信じているんだか信じていないんだかわからない様子でそういった。
「僕も、何かあった場合は対処しますから、大丈夫ですよ洸祐さん」
と言ってレイは俺の方に手をポンと置く。
――俺たちはきっとこの時、自分に酔っていたのかもしれない。珍しく、というか一年の夏も間近ということだったこの時期に、この日差しに、酔っていたのだろう。高校生というまばゆい言葉に、そして温かく疲れが飽和したこの体に。