本物のイチゴよりジャムの方が好きだったりする
「やっとおわった~!!!!!!!」
と藍子が手放しで日差しの中、プール掃除が終わったことを知らせてくれるのだった。
緑色の何かどろどろとした汚れは、奇麗に取り除かれプールの底に書かれた線が見えるようになっていた。自分たちのところが終わった俺と岩田先生で周りのプールサイドも掃除したおかげで、タイルもきれいに輝いていた。強い日差しも相まってそれはまぶしいくらいだった。白ってこともあると思うが。
「結構疲れましたね……」
「それはお前らが遊んでいたからだろ」
「そうかもしれません」
とレイははにかんでいた。汚れてもいい格好というか、水着だったので、あまり汚れは気にならないはずなのだが、其の七分丈の水着は緑に汚れていた。
あっちでは、これまた水着を着た藍子と杠葉先輩が楽しそうに談笑していた。
「あの二人、あんなに仲良かったっけ?」
「なんだか、すっかりと意気投合したみたいですね。元々波長が合うのではないかと思っていたので、納得のいく結果ではありますね。……洸祐さんは何か不満でも?」
「……いや、そういうわけじゃないんだが」
俺の悪いところだ。思ったことがすぐ顔に出てしまう。
でも、これは不満なわけではないのだ。
何というか不可解というか、それ以上にうれしいっていうか。
「あいつはさ、あんなんだから昔から同姓の友達ってのは皆無だったんだよ。そこそこ美人だから寄ってくる男はいたが、それでもあいつが本当に恋愛なんかに興味がないというか、本気で総理大臣なんてものを目指しているってことを理解すると、すぐにいなくなってな。だから、ちょっと嬉しいのかもしれないな」
あいつは。なんて藍子のことを言ってしまった。すぐそこにいるというのに。
俺がそんな恥ずかしいことを言ったのにもかかわらず、レイはまじめに取り合ってくれるらしかった。俺はこいつのこういうところを本当に尊敬している。
「恋愛に興味がないってのには少々気持ちが萎えますが……そういう洸祐さんはなんだかおかあさんみたいですね」
「よく言われる」
なんて俺とレイが二人で話していると、こっちの気配に気づいたのか、二人がこっちに向かって走ってきた。何やらよく見ると険しい顔をしていて。
「ちょっと洸祐!このちっちゃい先輩、ちょっとかわいいからって変なこと言うのよ?『そこに残ったタピオカは食べる』って!ありえないでしょ!あんなの今となってはあれがメインみたいに扱われているけど、ナタデココとおんなじよ!ちょっとそこに残ったくらいじゃ気にならないわ!」
「それはないじゃろう!あれだってちゃんとした食べ物なんじゃ!大体勿体ないとはおもわんのか!」
「じゃあ先輩は氷が入ったイチゴミルクの底に残ったイチゴの部分をきちっと全部食べるって言うのね!それができないならそんなこと金輪際言わないで!」
「この…小娘が!」
「小娘って……」
たった一年しか変わらないだろう。と俺が半ば呆れていると、
「洸祐はどっちなのよ!食べるの!食べないの!」
と俺の方に矛先が向かってきた。
俺はレイと先生に助けを求めようとしたけれど、隣にいるレイはそっぽを向いてしまったし、プールの襟に腰掛け俺達を眺めていた先生もわざと携帯をいじるふりをしていた。
はあ。やれやれだぜ。
全く。仲がいい友達ができたのだと喜んでいたのが嘘みたいだ。でもこの国にはいい言葉があるしな。「喧嘩するほど仲がいい」
ちなみに俺は、
「そんなの食べるに決まってるだろ!」
と藍子の頭にチョップをかますのだった。