総理大臣部?
「はい皆聞いて聞いて~!!!」
藍子は結構家と学校で態度が変わるタイプだ。内弁慶ならぬ外弁慶と言っていい。
昼休み、昼食を取っている数個のグループが教卓に身を乗り出している藍子の方を一斉に向いた。
「今日から『総理大臣部』の部長になりました、紫吹藍子です! 活動内容は簡単です。私を総理大臣にすること!以上!」
今度の教室は、どよよとすらしなかった。『総理大臣部』という謎の部活動を言い切るか言い切らないかくらいのところで教室は昼食を食べるモードに切り替わっていた。
「ちょっと聞きなさいよ!」
藍子はムキ―という風にして、わめいていた。
…………なんかごめんな皆。俺が情けないばっかりに。
俺は止めたんだぜ?だけどこいつが……。
なんて常套句のような擦り付けをしていると、藍子は俺の耳を引っ張って教室を後にした。
ちぎれるって!!!!!
「なんだって、あんなに興味示さないのかしら! 私変なこと言ってた?」
うん。言っていた。普通の人間は『総理大臣部』なんてこの世に爆誕させようとは思わないし、ましてその活動内容が「私を総理大臣にする」なんて突拍子もないことだというならば、あの反応は至極真っ当だと思う……。
なんて言えるはずもないので、しょうがなく「そだねー」と、お菓子でも食べながら作戦を話しうアスリートの様な相槌をうった。殴られた。
「昨日の夜、思いついたのよ。一人じゃだめだ。って。だから私を総理大臣にする部活動を創ればいじゃないって思ったんだけど……」
おいおい。その程度の想像力で総理大臣になろうとしているのか?そんなんじゃ国家崩壊秒読みだよ!
なんて言えるはずもないので、以下略。殴られた。
「ちょっと話聞いてるの?」
殴られた。殴られた。殴られた。
まあ別に痛くはないんだけど、どうしてかな、何が正しくて何が間違っているのか、俺にはわからなくなってきたよ……。総理大臣ってなんだっけ?マーベルヒーローか何か?
「さっき担任の柊を捕まえて話を通してきたわ。あいつも結構使えるわね。ほら」
と手渡してきたのは、部活動申請届。部長のところには、達筆な字で「紫吹藍子」と書いてあり、担任の柊先生のハンコが押してある。
「おい。何故俺が副部長の欄にいる」
「総理大臣に秘書がいるのは当たり前でしょ?」
彼女は至極真っ当なことを言う風にそんなことを言った。いや、秘書はいるだろうけれど……。
「いい?最低三人いなければ部活動にはならないらしいから、あと一人。欲を言えば女の子と男の子一人ずつ。洸祐が連れてきなさい」
「え?」
「期限は明日のお昼まで。いい?」
「え、あ、はい」
彼女の拳にはしっかりと力が込められているのが見えた。いやね?別に怖かったわけじゃないよ?阿形吽形の顔を般若でかけたような形相をしていたとか、そういうわけじゃ決してないし。いやいや、あんな美人な顔が台無しだなんて思ってないでs……殴られた。なんで。
そんなわけで、俺は男一名、女一名を明日の昼休みまでに集めなければならなくなったというわけだ。
廊下で大声で話していたし、そして、殴られる鈍い音も聞こえていたこともあるのだろう。
再び教室に戻った時、俺のことを「かわいそうな奴」としてみるような視線が多いような気がした。
とりあえず、部活入って。お願い。