大の大人が転んでると謝りたくなる
「俺のような?」
先生はそうだ。と言って続けた。
「別に君に限った話ではないよ。キチンと〜ようなとついているだろう? あと、具体例を挙げるとすれば、四年生の成都海とかだな」
ここで、あの髪の異様に長い先輩の名前が出てくるのは意外だった。もしかしたら、不覚にも四年生になってしまった彼の事は、先生方もほとんど空気のように扱っているのだろうと勝手に予想していたから。
「……実際、彼の扱いはそれで間違っていない。ほとんどの先生は彼のことをこの学校の生徒とすら思って居ないだろうね。居候のような存在として、座敷童と言って通じるかな? まあ、どちらにしろ、彼を気にかけているのは、私くらいのものじゃないかな。別に自慢とかじゃないけれどね」
と、またモップで掃除を始めた先生は口を挟んだ。
あの先輩。元生徒会長。そして──俺を生徒会に送り込んだ張本人。
彼は俺のことをなぜか気に入っているようだったが、全くと言っていいほどに身に覚えがない。もしかすると、彼女が言うように、俺と先輩は並列されてしかるべき生徒なのかもしれなかった。問題児?それとも変人?どれでも俺とは違っているように思うが。
「私は彼のような、君のような存在に目が離せないんだよ。職業柄ってのもあるだろうけれどね。私の専門は君たちみたいな生徒を導くことだからね」
先生は、どこか遠くを見るようにして目を細める。それは、夏も間近の日差しが強いからなのかもしれなかったし、なにかを思い出しているのかもしれなかった。
彼女は微かな慈愛のこもった目を向けて、
「さあ、頑張りますか!」
といって、モップをもって走り出していった。
俺の疑問に答えることを避けるような天真爛漫さだった。
カッコいいという印象の彼女だったから、かわいいことをして、祟ったのだろう、モップをもって駆け出した彼女は奇麗な放物線を描きながらすっころんだのだった。