年増じゃなくて熟女が好きなだけ
俺とレイはどこか懐かしい香りのする男子更衣室を抜け、階段を降りる。休日ということで、誰もいないひんやりと、ひっそりとした廊下を歩いていく。
突き当たりのところを左に。数々の部活動が収めてきたであろうトロフィーなんかが所狭しと並べられたガラス張りのショーケースを尻目に、重たい扉を開ける。
段々と塩素の香りが強くなってきた。プールサイド特有の少々滑っとした床を前に、俺とレイは靴下を脱ぐ。
左手にはモップ。右手にはバケツ。もちろん服は着ていない。水着のみだ。
「漸く来たわね」
プールの前に、仁王立ちをした藍子。隣には小さいことで有名な杠葉恋先輩もむすっとした表情で体育座りをしていた。三角座りともいう。
「今日は、プール掃除をします。異論反論は一切認めません。わかったかしら!」
なんだか変な話し方になっている事は置いておいて。
言われなくてもわかってるよ!
なんでも聞いた話によると、これは生徒会の仕事という事らしかった。
本当は先生方がやる事だったり、あとは業者に頼んだりするそうなのだが、今年は先生方の都合もつかず、そして業者を呼ぶ金すらもないという事らしかったので、生徒会に打診が来たのだそうだ。
「すまないね。諸君たち。日曜日なんて遊びたい盛りにこんな用事を半ば押し付けるような形になってしまって。もちろん私も手伝うから安心したまえよ。ん…? 一体私は誰なのかって? ああ。君たちはまだ一年生だから知らないのか。この私がかの有名な『岩ちゃん』こと、岩田冴子だよ。一部からは『冴ちゃん』なんて呼ばれ方をしているが、まあ、好きなように呼ぶといいさ。」
なんとなく、見たことのある先生だと思った。一体どこで見たんだっけな…と俺が顔を顰めて記憶を捻り出そうとしてると、隣から、
「もしかして全校集会などで、司会を務めている…?」
とレイがそれっぽいことを言った。確かにそうかもしれない。と俺は内心合点がいっていた。
女性だというのに、という文言はさておき、とてもパンツスタイルが似合うすらっとした長身の美人だった。
こんな高校一年生になったばかりの俺に言われるとその美人さに泥がつきそうなものだ。それくらい、かっこいいという言葉が似合う美人だった。
「冴ちゃんはこういっているのじゃが、本当のところは、冴ちゃんも被害者なのだ。体育教師に押し付けられたとか…」
と杠葉先輩がこぼすと、岩ちゃんは、口元に手を当て、「しっ」と彼女に笑いかけて
「いいんだ。最近は体がどうにもなまってしまってね。そして…」
先生はニヤリと笑って。徐に羽織っていたシャツを脱ぎ始めて、言った。
「男子高校生を悩殺するのも悪くないかなと思ってね」
──ありがとうございます!!!!!