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少女ネイビーとシャングリラ  作者: オカダ倭
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ポータブル扇風機の香りは好きじゃない

『十時に駅集合。持ち物は水着とお金』

と藍子が言っていたので、きちんと十時に集合し、水着も持ってきたのだが、どこを見回しても藍子がいない。どうしたのだろうか。

俺が携帯を取り出し、連絡を入れようとすると。

「何時間に間に合ったみたいなこと言ってるのよ。十五分遅刻よ。恥を知りなさい」

とトートバックで殴られた。藍子だった。

「これは叙述トリックと言ってだな。こうして地の文で……」

「違うわよ。それはただの嘘っていうのよ。語り手であることを存分につかって好き勝手やってくれるわね。今度からは私が語り手になろうかしら」

「それだと、奇想天外な文章が飛び出しそうだ……」

「あんたみたいに、長ったらしくならないわよ」

俺の文章って長ったらしいのだろうか。意識したこともなかったな。

これ以上、くだらないメタトークとしてもつまらないと思うので、続けよう。


駅のロータリーを抜け、小さな路地へと歩いていく。

もう、夏の気配がしている。蝉の鳴き声らしきものも場所によっては聞こえ始めているし、この日ざしが俺たちを焼くのも時間の問題だと思われる。

小さな日本家屋の通りを抜け、歩道橋を通る。

そして国道沿いの歩道を……。

「ってか、学校に行くのか?俺達」

これは我らが母校へと向かう道である。私立学校らしく駅前にあるなんてのは幻想で、わが学校は駅から十分のところにある。そこそこの距離なので、夏は億劫になることもある。

現在進行形で俺はへこたれそうなのだが。

「情けないわね……これくらいの距離で。えーと、そうよ。学校に用があるから」

隣で飄々と歩いている藍子はポータブル扇風機を掲げていた。しかも大きな麦わら帽子もかぶっているものだから、とても涼しそうだ。

かくいう俺は、帽子は愚か、うちわさえも持っていなかった。

そういうところまで気が回らない男。それが降谷洸祐という男である。

「そうやって、自分の欠点を自慢するようなこと、やめてよね。私の秘書がそんな奴なんて、信じたくないから」

まあ、もうすでに落第と言えば落第だけど。

とぼそっと言った。

すこしこわかったです。


なんてやり取りをしているとあっという間で、学校に到着した。守衛さんにきちんと挨拶をして、学校へと入っていく。制服ではなかったので、学生証の提示が求められたが、俺も藍子もちょっとした有名人であったので、顔パスというやつだった。

「あんたは問題児兼生徒会。私は学年一位ってところかしらね。せいぜい感謝しなさいよ。元生徒会長の髪の長い先輩に」

「へいへい」

と、言われるがまま、連れて行かれるがまま、俺は藍子の後をつけていく。

職員室に行き、鍵を先生からいただいて、そして向かった先は……。

女子更衣室?

ばこん。

スリッパで殴られた。――どこから持ってきやがった。

「あんたはこっちに決まっているでしょ。さっさと着替えてきなさいよ」

と男子更衣室の鍵を渡される。

もちろんそのつもりだったとも。藍子が懸念していた通りの事なんてするつもりはなかったとも。

ほんとだよ?

そして俺は、この女子更衣室にちょうど上に併設された男子更衣室に行くことになった。

なんだか一人の学校って怖いな。


女子更衣室と男子更衣室を一緒のところに作らないのは、やはり俺のような奴がいるからなのだろうか。断じて変態ということではなく。

でも、それは女を守るということもあるのだろうが、男だって守られているのではなかろうか。もしかしたら、というかもしかしなくとも、男だってそういった危険に巻き込まれるようなこともあるだろう。

と、男子更衣室と女子更衣室の配置について思いをはせながら男子更衣室の鍵を回す。

――開いている。

なんだ、誰かがカギをかけ忘れているじゃないか。

やはり男子更衣室も危険にさらされているではないか。

と、ドアを開けると

「こんにちは、洸祐さん。藍子さん、元気でしたか?」

と、いけ好かない、気障な袖ケ浦レイという男が着替え途中でそんなことを言った。


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